ジャーマンチャネル

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パラオに行くにはいったんGUAMに降り立ちトランジットが必用だった。

ナオミはいつも黒い服を着ている。
ショートボブの彼女にはタイトなドレスが良く似合うが、ストーンウォッシュのジーンズに
黒いベースボールキャップ、薄い革のライダーズジャケットで足早に空港通路を歩くと
FBIの捜査官かとイメージが重なる。

HarleyフォーティーエイトでLAのコンドミニアムに来た時も同じ装い。
その時はレイバンのサングラスにジェットヘルで、ちょっとHollywood映画の登場シーンを
見るようで、日中の強い陽光に颯爽と爆音を奏でながら現れ、私の前で停車してにっこりほほ笑んだ歯が白く素敵だった。
美女にHarleyはよく似合う。

このバイクはあたかも、アメリカ人女性の美を引き立てる魔力を生まれ持って備えているのかもしれない。

ナオミの名前は日本人の直美、尚美、奈緒美など、同じ発音なので最初に会った時から妙に親しみが持てた。
目がいたずらっ子のように少し下から見上げるような、ちょっとしたしぐさが可愛い。
表情が豊かでくるくると黒い瞳がリスのように動く。

スポーティーなボーイッシュな感じの中に、女性のふくよかな暖かさがあって、時として視線が深く私の胸の内を
読み取るようにじっと制止すると、ハスキーなささやき声で尋ねた。
「今、ステディなお相手居るの・・・?」
「・・・・えっ・・・いきなりのパーソナルクエスチョンだね・・・・」
「一緒に仕事する相手には聞くわ・・・・私なりの安全策と・・・・冒険よ・・・」

どう意味を理解したらいいのか、一瞬戸惑う。
誘いでもあり・・・彼女独自のトラップ・・・・?

まあ、どちらでもいいが・・・・
あいまいに微笑んで、氷が溶けて薄くなったアイスラテを意味無くすすった。

パラオには、ビーチが無い。
意外と思うかもしれないが、砂の堆積形成がなされないのだろう。
ホテルによっては重機でホワイトサンドを運び入れ、人工のビーチをセールスポイントに挙げているところも有る。

部屋をとったホテルはビーチ沿いにバンガローと、ココナッツツリー、ブーゲンビリアの群生が素晴らしい森にコテージが有る。
バンガローは、どちらかというとハネムーンカップル向け、コテージは実用的で家族連れや長期滞在者に好まれる。
内装はベージュを基調にした壁面に、バンブーや編み込んだリーフが幾何学模様になったタペストリーが飾られ、ミクロネシアの
古来からの様式のようで部屋の照明をランプシェードにすると、とても落ち着く。
直接的な照明の光より、間接照明が織りなす空気感と暖色の透明度、目から入る光線の絶妙な慣れ、間接照明の暗さを逆に効果として取り入れ
海からの空気と植物の香が混じり合って、部屋に居ること自体が快適だ。

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いつも夕暮れ時に、微かにギターの音色が聞こえる。
散歩の時に会った、オーストラリアのリタイヤした御老人の音楽家だろう。
テラスで海を見ながら持参した楽器で奏でているようだ。
静かに爪弾くバラード調の調べが、ものうげでいて時として謳い、水平線にゆっくりと消えゆく黄色からダークな赤にグラデーション変化する
太陽に贈るレクイエムにも聞こえる。

ギターの奏者はサンタクロースのような顎髭を蓄え日に焼けた穏やかで優しいお顔に、目が物静かな学者のような風貌だ。
赤いイルカのイラストがプリントされたアロハに、ステテコ風のサイズが大き目なペラペラなズボンを履いている。
いつもゴーギャンの絵画から飛び出してきたような、黒髪が長く軽くウェーブがかかったタヒチアンと白人のハーフと思われる
美しい娘とよく見かける。
時々テラスでコーヒーを飲んでいる姿に、視線が合うと軽く頷くような会釈をする。
見ていると仲のいい父娘が、コーヒータイムを楽しまれているようで、とてもハッピーな空気が二人より漂う気がする。

部屋で撮影の機材チェックをしながら、イメージデッサンして過去の画像をPC内に呼び込み確認していた。
どれも当たり前のように光量がこれでもかと豊富なモデル撮影ばかりだ。
今回はチャンスが有ったら、土砂降りの中のブーゲンビリアの群生の中でナオミを立たせて撮影してみたいとふと思った。
濡れた髪と薄く肌に張り付いたドレス、背景にグリーンの熱帯性の植物群、真紅のブーゲンビリアの花房がアクセント。
天を少し見上げた顎に雨のしずく、のど元から滑る水滴、目は軽く閉じられて急なスコールに自然の豊穣を願うビーナスのイメージ。

・・・・・・ドアを軽くノックする音・・・

開けると、ナオミがどこで見つけたのか、でかいストローハットをかぶって笑っていた。
さっきまでイメージしていたばかりだったので、いきなりで少しとまどった。
「どうしたの・・・?・・何か・・まずかったかな?」
「いやいや・・・ナオミの事をイメージしていて・・・本人がいきなり目の前だから・・・」
「あら・・・?・・それはそれは・・どんなナスティイメージ?」
白い歯を唇の端に浮かべて、ちょっといたずらを見つけたような意地悪な微笑で目が笑いながら睨んだ。
「はははっ~~~、仕事だよ仕事・・・ちょっといいイメージが浮かんでね!」
「えっ~~~~~何のイメージ?・・・お・・し・・え・・・て!」
まだ目がいたずらっ子を見つけ出そうと追っている。
「あはは~~~、内緒内緒、いずれ現場で教えるさ・・・・・・ただ・・・・ねぇ・・・」

少し沈黙

「何々?・・・その言葉の先は・・・・・・?」
「自分の力では…どうにもならない部分がねぇ・・問題・・・チャンスと・・運が必要」
ナオミはわざとストローハットの広いつばを両手でスヌーピーの耳のように両頬に閉じている。
彼女なりに会話の答えを考えているつもりなのか、しぐさが可愛い。
「まっ・・・・いいわっ・・・いずれ解るね」
「そう!その通り」

広げた機材を興味深そうに見ている。
1眼レフの水中ハウジングは昔に比べ進化しているが水深60mくらいの気圧・水圧変化に耐えられる。
水中ライトのスティに2灯のストロボ仕様なので、どこかカニみたいな様子にも見える。
パラオの水中は透明度も高く、光量も10m以内なら条件にもよるが豊富だ。
今回の水中撮影はナオミの背景にバラクーダの大軍が大渦のような絵とナポレオンを広角で絡めてみたい。
全て自然相手なので、多くの条件がマッチしないと思う絵は撮れない。
他にも撮影イメージはあるが、浅瀬やラグーン内の岩礁帯で抑えられそうなので、スコールに立つ女神イメージは
心の中でチャンスを熟成して待とうと思った。

ナオミと知り合ったのは、偶然が重なったある1日だった。

LAのオレンジカウンティにマニアなバイクメカニックが居て取材に赴いた。
郊外のハイウェイ高架の下にジャンクヤードのような倉庫街が有りその一角の古工場がホセの店だった。
彼はメキシコ系アメリカ人で大男だ。
いつもカーキ色のつなぎに赤い色調の中にどくろが舌を出しているバンダナを海賊巻に頭にかぶっている。
50年輩だそうだが若く見えるのは、柔道のせいかもしれない。
親日家で何度も日本を行き来している大食漢だ。
子供の頃見たカトゥーンの影響で空手に興味を持ち、当時の自宅から子供でも自転車で通える道場が有ったらしい。
早速入門したのはいいのだが、そこは空手道場ではなく柔道の稽古場。
仕方がないのでそのまま通っていたら、持ち前の体格と勘の良さでたちまち上達して面白さに目覚め
気が付いたら黒帯になっていたそうだ。

ホセとはたちまち意気投合した。
土産に持参した日本酒に狂喜して、今までエンジンをばらしていたOILで黒くなった手をもどかしそうに洗うと
奥の事務所からマグカップを2つ持ってきて栓を開けた、ニヤニヤと1口飲むと無精ひげの唇をぺろりと舐めた。
私の目をじっと見て、力強く親指を立てて頷いた。
気に入ったようだ。
マグカップで2人で「乾杯!」・・・つぐたびに変な調子で「オットット・・・どうもどうも!」などと言う。
日本の居酒屋あたりで酔客に教わったそうだ、彼なら誰ともすぐ仲良くなるだろう。

工房は外見では雑然としているかと思ったが、ものすごく綺麗に整理された工具が鈍く光り輝き、清掃された床に
整然とあらゆる種類の大型バイクが時を待つように輝き並んでいる。
4台ほどの作業台にリフトUPされたマシンがフェンダーやメッキ部にプロテクトシートを掛けられ、エンジン部や電装パーツが
むき出しで修理されていた。
他に2名の若いメカニックが黙々と作業に没頭していた。
彼を慕って師事して働いている有能な弟子達だそうだ、2人とも寡黙だが笑顔が素敵でなんでもホセの遠い親戚の人間らしい。
彼なら面倒見がいいから、この工房での作業は楽しそうだ。

私は自然な感じの工房内をイメージし、撮影し始めた。
中は明るく光量が有るので高機能のNIKONのハイパフォーマンスコンデジ1機で、作業の気を壊さないように多くの角度からショットを重ねた。
自然光と工房内のライティングが高質なメッキ部分の輝きを更に美しく光らせる、漆の光沢を放つ黒いタンク、ラメを散らした
GOLDのキャンディ塗装、エンジンの輝きの陰と陽、目には高価なおもちゃ箱の中身が広がり、その魅力に翻弄されつつ、あたかも鼓動感を持つ生命体に
メカニックたちが取りついてなだめすかしているかのように見える。
夢中でシャッターを切った。

遠くから爆音が聞こえ近づいてくる。

工房内に居る私からは開放されたシャッターの外は逆光で、ファインダーからの視線移動では
目が光量に慣れない。太陽光のシルエットに黒い陰で大型バイクが入庫してきた。
ようやく視界が慣れた頃、サイドスタンドをかけ颯爽と降りた人影を確認した。
メットを脱ぐと、少し華奢な男性かと思ったが若い女性だったので驚いた。
ナオミだった。

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ナオミはファクトリーにカメラを持って佇む私を目にすると、メットで蒸れたショートボブの髪を軽く振りほどくようにニコッと笑った。 
お客と思ったのだろう、ハーイとグローブを外した手を軽くあげてジャケットから書類と何かの部品を取り出すと足早にホセに渡した。
ホセと書類を見ながら何か説明している。
ホセはいくつか質問すると彼女の答えに満足そうにうなづいた。

撮影の手を止めて二人を眺めていた私にホセが手で呼んでナオミを紹介した。
ナオミはホセのファクトリーをバイトで手伝っていた。
もともとWEBデザイナーとフリーでモデルの仕事をしていたらしいが、ホセの店からバイクを購入した事が縁で今に至っているらしい。
ホセもナオミのような美女が男っぽいバイクファクトリーに居れば、雰囲気も和み嬉しそうだ。
事務的な事と、ちょっとしたデリバリーなど彼女は器用にこなすらしい。
今回も、急ぎのパーツをWEST HOLLYWOODのホセの友人の工場に見つけて、バイクで取に行っていたらしい。

ナオミは私がカメラで飯を喰っている男だと知ると、いきなり悪戯するような視線でいくつかポーズをとってみせる。
背景にうずくまるたくさんのバイク、据え付けの機械や、壁に整然と並んだ何かの工具、赤く巨大なツールBOX、
その中でスリムな黒革のライディングジャケットにぴっちりしたこれも濃いダークブラウンの光沢ある革パンツ、
ブーツは女性用のファッションブーツなのか、濃いダークレッド。
モデル業もやっているだけに、わざとポージングしながら挑むように私の目を見る。

絵になる。

機械や工具、メッキパーツやバイクの放つオーラーの中でこの女性は更に生命感を秘めて、跳躍する寸前のワイルドキャットに見える。
野生の中にどこか母性の優しさが見える気がする、若い女鹿にも見える。
クールな感じではなく、柔らかく見えるのはタイトなシルエットの中の女性的なふくらみからか。
ナオミはチャーミングな要素が深く幾重にもある女性のようだ。

思わず、カメラを構え画角を気にせずにシャッターを切った。
10ショットくらい付き合ってくれた。
ホセはマグカップを時々口へ、しょうがない奴らだとあきれ顔に微笑をもって眺めていた。

「私のモデル料は・・・後で請求するわよ・・・」
「・・まだ契約してないよ、これはカメラテスト・・・あはは」
「あら?・・・・いつ採用かしら?」
ポージングを解くと、腰に両手をあてて悪戯っぽく睨んだが目は嬉しそうに笑っている。

ホセが割り込んで
「おいナオミ、店の事務仕事優先で頼むぜ!本業ならその後で頼むよ~~~俺は老眼で細かい字最近ダメなんだよ」
「はいはい、おじーーーちゃま、書類関連は今日中に仕上げるわ」

ナオミは、さっき会ったばかりの私の心にすんなりと溶け込んでいった。
カメラを通した何かがナオミに感じ通じたのだろうか?
まだ私がどういったたぐいの写真を撮る人間か、何の説明も聞かずに質問すらせずにモデル志願しているのかと考えてしまう。

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おおかた依頼されたLAのバイクファクトリー画像はイメージ通りに撮影できていた。
もう少し、カット数を重ねようかと思っていたのだか、ナオミの登場で私の何か、リズムみたいなものが変化した。
これ以上ファクトリー内の撮影はどこか無理が出そうな気がした。
依頼の件は撮り終えたカットから厳選してクライアントへファイル送信しようかと思った。
フィルム時代を考えると、現代は格段に便利だ。

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「ナオミ、レストランロー行くんだろ、悪いがあいつの工場までチェック届けてくれないか?」
「OK・・・・、そのままアパートへ戻っていいなら・・・」
「ああ、いいさっ、今日は日本から客人が来てるから、俺の代わりに一緒に観光ツアーでも案内してくれ」
ナオミは私の方を向きながら言った。
「撮影の仕事なら、スネーク見ておいた方がいいわね!」
「スネーク・・・・・・?」

私は何かスラングかとその時は思った。

「おおおっ!そりゃいいや!あそこはCOOLだぜっ!整備したキングが有るから貸してやるぜ!」

LAのファーマーズマーケットの側に部屋を取っていた。
そのモーテルから歩いてマーケットに行けた。
ここも観光地化していたが、アメリカ的な絵が撮影できるので個人的に好きだ。
どこの国に行っても市場は活気が有って魅力に満ちている。
人々の生活感が溢れその国の個性が出る。
今回の取材でも、イメージショットとして押さえておくには最適なロケーション。
クライアントの依頼の中には無かったが、何枚かこれも絡めようかと思っていた。
今朝も散歩でいいカットを撮影できていた。
ホセのファクトリーまではレンタカーで来ていた。

「うれしいね!・・・セニョールホセありがとう、こんな美人のツアーコンダクターなら毎日でも喜んでついていくよ」
「あら・・・お上手だ事・・・・私はお嬢さんのツアーガイドとちょっと違うのよ」
うれしそうに私を試すような目で微笑を浮かべて、ナオミは奥の事務所へ消えた。

ホセは2012年式のロードキングをゆっくりと押し出してきた。
ミッドナイトパールのタンクが夜の海に光る漆のような、どこか深い青味が沈んでいるようで美しい。
ツーリーングファミリーなので広大なアメリカンロードには最適だろう。
仕事柄ホセは何台も自分用のバイクを所有していた。
メットは撮影用に持ってきたBUCOのバブルシールド付が有るからそのままでいい。
サイズは・・・こちらで乗る事も考え自分にマッチしたものを選んでいた。
LAの陽光は強いのでいつも愛用しているBOBSTER CHERGER スモークが私の目には優しい。

「ハーイ・・・お待たせ!」
事務所から出てきたナオミは上下のライディングウェアを着替えていた。
先ほどのイメージが強かったので、目にした私は驚いた。

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ナオミは1960年代のイギリスのバイカーファッションをまとっていた。
黒い光沢のある革パンツをエンジニアブーツにインして、上はWの黒革ライダースジャケット。
胸にエースカフェのワッペン、背中に白くROCKERSとLOGO。
アイボリーのジェットヘルメットに黒縁のゴーグル。
カフェレーサーのスタイルがすごく似合っている。
ROCKERS全盛の時代に今の彼女が居たら、たちまち人気者になっていただろう。

見とれていた私にナオミは少し怪訝そうに言った。
「どうしたの?・・・女は洋服で気分を変えるのよ・・・・私は相棒でだけどね」
「えっ・・・?相棒って・・・俺の事?」

ナオミは私の顔をまじまじと見て、思わず吹き出していた、しばらくおかしそうに笑っている。

「私の・・・・相棒はね!・・・」

そう言うと、ファクトリーに並ぶバイクから奥に歩き、少し離れた場所からあまり見かけない黒いバイクを押し出してきた。
カフェカウルが付いていたので気が付かなかった。

「トライアンフ、スラクストンカフェスタイル」
颯爽と跨ってそう言った。

お決まりのバーエンドミラーではなくノーマル位置に変更している、セパレートハンドルだがホセのカスタムであろう、前傾姿勢が深くなく楽そうだ。
リアのフェンダーが短い、ウインカー位置もカウルが有るので小さ目になっている。
タンデム部分のカバーは外して小さ目の黒いKriegaのバックを括り付けている。

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「BOY’Sより、この子は私の言うことをよく聞いてくれてとてもSEXYよっ・・・・
エンジンも軽快で、いい感じのブリーズね!」

KEY ON でファクトリー内に心地よいエンジンサウンド、排気の香りを嗅ぐと心にも火が入る。

私は、乗ってきたレンタカーの荷物から着慣れた革のシングルライダースを取り出した。
下はジーンズより機能性がいいので薄いカウ革のライダースパンツを履き、愛用のエンジニアブーツだ。
ロードキングに跨りミラー調整、重い車体だがきっとアメリカンロードを忠実にトレースしてくれるだろう。

ホセは空になったマグカップをテーブル代わりの古いドラム缶TOPに置いた。
「Hei! Rider’s ・・・Drive sefety!…….. I will go buck to work」
そういうと奥の事務所に向かいながら、背中で手を振った。

レンタカーはホセが預かってくれる、高価な撮影機材もここなら安心だ。
ジャケット内には小さ目のハイパフォーマンスコンデジ一つ忍ばせた。

ナオミはゆっくり通りへ出ると「Follow me!」と一言。
スラクストンと一体となりバンクして曲がって行きステート5に乗る。
私はロードキングで追った。
安定して走り易い、重量級バイクも米国のFREEWAYならまさにKING、エンジンの鼓動が進軍の太鼓に聞こえ、風に乗り後方に消える。
ハンドル幅が有るのでどっしりとした運転styleは威風堂々、とても心地よくクルーズ出来る。

ナオミは時々振り返ってお茶目に手を振る。
私がコンデジ片手撮りしているのをミラーで確認していたのだ。
ナオミの革のパンツが形のいいヒップラインを強調して、スラクストンのシート上で微妙に左右に動く、
軽くスラロームしてみせるのだ、60マイルは出ているが軽快にラインを作り出している。
やや逆光だが、いくつかショットを重ねた、運転中はさすがに集中できない。
走行中のバイクを動画で撮影するのはそれなりの方法があるが、スチールになると画角などに問題が有る。
1眼でもそのホールドと専用のリモコンシャッターで数台装備するステーでもバイクにセットすれば
面白い絵が撮れるだろう。

ステート5から101へ、車線も多いので軽快に車が流れる、我々2人のバイクも車にさえぎられる事も無くFREEWAY走行が快適だ。
それにしても、ナオミはどこへ連れて行く気だろうか?
ホセの用事も有る事だから、そう遠くには行かないはずだ。
今日は快晴でとても気分がいい、目的地は聞いていないがこのままいつまでもクルーズしていたいと思った。

ナオミのウインカーに従い、フォローしていく。
結構距離を稼いでいる。
いつの間にかFREEWAYを降り切って、丘陵地帯の道に入る。

やがてナオミは路肩に停車して、後ろに停まった私を振り返った。
ゴーグルを上げて、にっこり笑った、日差しに白い歯が覗きルージュの赤が引き立つ。
現代に降り立った、60年代のカフェレーサーガールの艶やかな色香。
たちまち私はタイムトリップしているかのような錯覚を覚え太陽光が眩しかった。

「Welcome to snake!」

ナオミが一言そういいながら、ゴーグルを掛けつつ顎で路肩のロードサインを指した。

Mullholand Hwy 標識にはそう書かれてあった。

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丘陵地帯を東西に走り縫うような舗装路。
別荘風の家屋がフラットな広大な土地に並び、木々が覆い隠しているがそれも幹線道路に近い部分だ。
UPしてゆくと建物も無くなり、ほとんど直線が無い部分も増えてくる。
山肌をうねりくねり、まさにもの凄い長さの巨大なスネーク!
LAのバイカーが敬意と愛情を籠めてそう呼ぶのも、現地を見れば理解できるだろう。

ナオミは路面に張り付くように綺麗なライン取りで軽快にカーブをトレースしてゆく。
ヘヤピンやかなりきついカーブにはロードガードが有るが、ちょっとした崖の向こうは急斜面になっていたりする。
途中、木々が枝を大きく囲うように道路上のひさしになって影の部分も有る。
シャドウから日の光が反射する路面へ、サングラスが役に立つ。

ナオミはこの ”スネーク”の為にバイクをチョイスしてそれに見合ったドレスを身にまとってみせたようだ。
彼女のウイットが新鮮でとても魅力的だ。
目の前を黒く若い雌のパンサーが駆けている。
私はそれを追うハンターのような気分になり、バンクしないキングをなだめすかし、でかいエンジンパワーを緩急つけて引き出した。
軽快なスラクストンにツーリングファミリーのロードキングが必死でチェイスしてゆく。

私は夢中でナオミが描く路面をトレースしていたが、しばらくすると慣れもあり周りの景色を楽しむ余裕も生まれた。
この道は、車好きにも快適ロードのようで路肩サイドの開けたパートには高価なスポーツカーが何台も停まっている。
通り過ぎるバイクをキャンピングチェアを持ち出し、でっかいコールマンクーラーで冷やしたビール片手に眺めている連中もいる。
視線が合い合図すると、手でサインを送ってくれたりする。

すり鉢状にカーブがバンクしたタイトなコーナーでは、ビデオカメラや望遠装備の多くのカメラマンが走行シーンを捉えようと
構えている。
バイカーはここぞとかっこよく走り抜けてゆく!
後で動画で観て知ったのだが、このコーナーは事故も多く、気を付けなければならない。
カメラマンの多くはここの動画撮影を売れば金になるので喰っていけるようだ。
かっこいい被写体、中には事故シーンなどには困らない。
待っているだけで、向こうから飛び込んで来てくれるのはバイカーのヤナ場のようで最高だろう。

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LAには降雨はほぼ無いので路面はいつも乾燥、怖いのは砂だ。
山の肌色の土が太陽光を白く吸収して、どことなく埃っぽく見える部分も有る。

ナオミがスローダウンしてポンピングブレーキ!
減速を掛けて前方の先を確認すると、目の前でバイカーがスリップ転倒して、細かい砂が煙幕のようにその部分だけ舞っていた。

ゆっくり停止してみると、ロードバイクの方2名を巻き込んで背後から追突していた。
倒れた赤いDUCATIをロードサイドで見物していた人や、休息していたバイカーが起こし安全な開けた路肩に運んでいた。
自転車の2名は膝から血が出ていた。一人は腰を押さえ立っていたが痛そうだ、DUCATIの運転者はジャケットの左サイドが少し裂けていたが
大丈夫そうだ、まだヘルメットを被ったまま呆然としている。
3名とも大きな怪我はなさそうだが、倒れたロードバイクの細いタイヤは2台ともぐんにゃりと曲り、DUCATIのクランクケースは削れ割れ、OILがまだ滴っていた。
広いエリアに駐車していたキャンピングカーから簡易マットなど持ち出し、木陰に敷いてけが人を寝かせている、迅速にみんな協力して応急処置をしていた。
見事な連携!動きに慣れが感じられる。
多くの修羅場を見てきたのだろう。

ナオミは顔見知りと思われるやや年配女性を木陰のギャラリーから見つけて話していた。
大柄な二の腕にTATTOOが派手だが日に焼けた彫りの深い顔がインディアンの女性みたいで
どこか威厳が有り、黒い髪を三つ編みにしていた。このタイトなコーナーの常連バイカーさんのようだ。
茶色の革のベストにターコイズを縫い込んだデザイン、Harleyの磨き上げられたエンジンが光る。
黒いタンクのスプリンガーにもたれて座り、見事なハンドクラフトのレリーフがあしらわれた濃いベージュのサイドバックがエージングしていて物凄く素敵だ。
並んだ華奢に見えるナオミと親しげに話している様子はとても様になる。
事故の手助けは多くの人がテキパキこなしていたので、私は画角を変えて何枚もナオミと女性の様子をカメラに収めた。

私が撮影している姿を見つけて、この女性が怪訝そうにしていたのを見てナオミは少し顎で呼ぶように首を傾けた。
私は二人に近づきTATTOOに見とれながら自己紹介した。
「Hi,nice to meet you! コンニチハ・・・」茶色の澄んだ目がどこか母のように優しく微笑んだ。
彼女の名はエマ、ナオミの紹介で私が日本から来たことを知るとTATTOOに視線を送っていた私に、左右の腕を目の前に差し出した。
よく見るとそれは見事な錦鯉の彫り物だった。
右にはダーク系の緋鯉が水流に泳ぎ、桜の花びらが舞っていた。
左は黒い陰影のある鯉が滝を登るような図。
左右の腕をあわせると、どこか夫婦鯉に見える。
エマは嬉しそうにゆっくりと腕を動かし鯉に話しかけ歌うような囁き、「Wake up my lovers~~~♪」
褐色の皮膚に閉じ込められひっそりと住む鯉の生命感が溢れ泳ぎ出しそうに感じる。
「エマ、素晴らしいTATTOO!それ日本の彫師でしょ?」
彼女は大正解を得た回答者を見つけた司会者のように、満面の笑みで初対面の私に抱き付いた。

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エマは大柄でややふくよかだ、いきなり抱きしめられてどぎまぎする。
そんな私の表情を見て、頬を摺り寄せる。
嬉しそうに笑ながらやっと解放してくれた。

「ナオミこのナイスガイならOKよ!・・・・」
言葉の意味が呑み込めなくて更に戸惑う・・・・
ナオミはエマと私が知らないうちに内緒のガールズトークをしていたようだ。
「ナオミ・・・何の話?・・・・OKって何が?」
「エマは・・・・きっと未来が読めるのね、その答えは・・・私にも謎ね」
ナオミはエマの腕を取って親子のように2人で微笑んだ。

「ねえ・・よかったらエマの家寄って行かない?久しぶりに会ったのでもっとお話ししたいし・・・」
「ああ、構わないよ、おれの事は気にしないでいいから、行くといいさ・・・」
「だめよ!あなたも一緒に行くのよ、もう行くって言ったんだから」
こっちの都合も聞かずにぐいぐい引っ張り出されて、これだ!
でも、彼女の強引さも新鮮で可愛い。
仕事のほうはここ数日で目星がついていたので、時間的には余裕が有った。
「初対面でいきなりお宅へお邪魔しちゃ失礼かと思って・・・・」

エマは不思議そうな顔をして言った。
「日本から来たバイカーは家族として扱うわ、TATTOOの鯉も故郷から来た人間を歓迎するわよ!」
「エマ、ありがとう!実は・・・・喉が渇いたから冷えたビールでもと・・・・」
「OK、ハズバンドのSamはビールを切らすと怒るから、BARが出来るくらい家で冷えているわ」
「それはありがたい、日本では飲酒運転が厳しいから飲むのをためらうから・・・・・」
米国ではオウンリスク、自己管理が出来て安全な運転が可能ならそううるさくはない。
しかし、パクられたら留置所とペナルティは相当に厳しい。

アンビランスカーが来てロードバイクの腰を痛めた中年の男性をを担架に乗せていた。
膝に包帯を巻いた青年は歩行可能なので、そのまま担架に付き添って乗り込んだ。
DUCATIのライダーはマシンの横でダメージを確認していた。
見た目、がっかりと肩を落としている、自分が引き起こした事故に精神的にまいっているだろう。
怪我をさせてしまった加害者なので、パトカーで乗り付けた警官に状況を説明していた。
やがて大型のフラットな荷台を装備したトーイングトラックが来て、傾けた荷台をスロープにして壊れたDUCATIを積み込み始めた。

我々は何も事故のお手伝いしてなかったが何となくほっと一段落して、事故現場を離れエマの家へ向かう事にした。
スプリンガーを先頭にナオミが走る。
二人のレディースライダーの走行はバイク車種は異なるが綺麗にシンクロして素敵だ。
妙に息が合っている。
ナオミにとってエマは友人の一人と言うより、年齢差もあってか仲の良い母娘のような存在らしい。
親密なファミリー的な空気がどこか漂っているのを感じた。
私はまた、2人の走行シーンを可能な限りカメラで狙いながらフォーローして行った。

やがて、丘陵地帯の切れ目から太平洋が広大に見え始め斜面に間隔を置いて並ぶ、別荘風の建物が連立するエリアに入った。
スローダウンしてエマのスプリンガーが私道に入る、かたわらの門柱にクジラのオブジェが置かれていた。
広いエントランスで停車。
ゲストハウスかレストランの入り口かと思ったが、エマの自宅だった。

素晴らし過ぎる環境に建つおしゃれな建物、私はロードキングを降りると3人のバイクを絡めてシャッターを切っていた。
「あらあらカメラマンさん・・・お仕事は忘れてまず中へ入ってよ!」
エマはセキュリティーを解除して、3mくらいありそうな木製に金具が黒く素敵なドアを開けた。
現代に現れたデザインが斬新な古城に入る雰囲気だが、ドアは軽くゆっくりと開いた。
思わず息をのんだ。
そこはホールになっていて視線の先には青い太平洋が180℃パノラマになっていた、一面大きなガラス張りだった。
シンプルなデザインだが豪華なソファやチェアが並ぶリビングは、階段で更に1mくらい低い部分になっている。
斜面に沿って建設されているので美しい景観を見るために最大の配慮が施されていた。
「わぉっ!アメージング!」
私は、海の景観に対面して水平線の輝きに見とれていた。

エマにソファをすすめられ、ようやく座った。
ナオミは自分の家のように勝手知っているようで、3本のヘンリーワインハードを冷蔵庫から持ってきた。
キッチンが後ろのコーナーにカウンターを備えて有った。
エマとナオミは同じソファに座っているのだが、いつの間にか二人ともライダーズブーツをその辺に投げ捨ててソックスを脱ぎ
裸足になっている。
「Welcome to MARIBU pit!」
エマが声を掛けて3人で乾杯した。

二人の姿を見ていたら思わずビールをむせてしまった。
そろいもそろって、二人とも大きなソファの上であぐらスタイルでビールをあおっていたのだ。
面白い親子のように見えるレディースバイカー、個性的で素敵なシンクロペアに笑顔が込み上げる。

[f:id:max6:20130629200444p:image]

「エマ・・・お腹空いちゃった、何か作ってもいい?」
ナオミは遠慮なくそう言った。
「そうね、ちょっとそのへんのストック見て、適当に作っていいわよ」
エマはビール片手に動こうともせず、テーブル上にあった洒落た貝殻を螺鈿のように張り付けたBOXを開けた。
細いシガーを取り出して、口端で咥え私に向かってウインクして言った。
「This property is a smoking area」
シガー用の長軸のマッチで火を付けると、香りを楽しみながらゆっくりとくゆらせた。
凄く似合う!
彫りの深い顔が少しネイティブアメリカンのような容姿、頼りがいが有りそうな男のような所作。
「Ema ,you looks so cool i love it!」
「Thanks road king」
エマはゆったりと優しい.
日本での仕事やバイカーの話、マリブの隣人の話などとりとめなく呑みながら話した。

「Help me please!」
ナオミが困ったように言った。
キッチンカウンターに野菜やチキンのパッケージを広げて何を作ろうか迷っているようだ。
「ナオミ、サンドイッチとかじゃ駄目かい?」
「ここのキッチンが素敵だから・・・ちょっと手が込んだもの作りたくって・・・」
エマは、まったく放任してニコニコしてシガーをくゆらせる。
「OK、では特技をお披露目しようか?」
「えっ~~~お料理出来るの?」
「何かPASTA在庫有るかい?」
ナオミは食材の引き出しからすぐに見つけ出した。
「前にここに同居させてもらったから、どこに何が有るか何でも聞いて」
「まったく・・・・娘みたいなもんよ」エマがそう言った。
ナオミはエマの家の空き部屋を短い期間ベースにして、仕事をしていたことがあったらしい。

私は冷蔵庫を覗いて、ベーコンとマッシュルームを取出した。
野菜庫からメキシコ料理に使うチリとにんにくを見つけた。
「OK.これなら美味しいPASTA作れるよ!」
カッティングボード上でチキンやマッシュルームをカットする私の手を見たナオミが驚いて言った。
「あなた・・・いいハズバンドになれるわよ」
「おいおい、ナオミは料理人の旦那をさがしているのかい?」
「あはは~~それも楽でいいわ、プライベートシェフね・・・」
横に立ち、かいがいしく手伝ってくれる。
ダスターを出してくれたり、不要になったパッケージや野菜くずを手早くかたずける。

「ねえねえ・・・・どこでお料理覚えたの?・・・すごい手際いいじゃない!」
「ああ・・長い事喰えない時代が有ってね、気のいい料理長が俺を弟子にして仕込んでくれたんだ、
・・・・6年くらいは代理シェフもやってたから・・・」
ナオミは驚いて言った。
「へっ~~~あなた・・・お料理PROじゃない・・・うんうん、いいね~~!」
「何がいいんだよ?」
「一緒に居れば・・・・いつも美味しいもの食べれそうね!」
「ナオミはモデルだから・・・食べ過ぎて太っちゃうぞ!」
「あはは~~~~~!そう思うのよね殿方は・・・・私は食べても太らないタイプなのよ・・・昔から・・」
そういえば、モデルという事も有って女性的なボディラインがすっきりと綺麗だ。
黒いカウ革のライダースパンツなので、曲線が際立って強調される。
「カメラマンとして言うけど・・・・ナオミのボディラインはもの凄く綺麗だよ」
「あらあら・・・・言い訳付ね、カメラマンさんじゃない御意見でも別にいいのよ!」
ナオミはまんざらでもない笑顔で嬉しそうにちょっとだけ照れた。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130712/1373626982:title=つづく]

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ティファールの大き目のフライパンに、生のチリと刻んだにんにくを入れオリーブOILを入れた。
ここのキッチンンシステムは豪華でIH調理のパートとガスグリルが別にあったのでガスを利用した。
IHもすばらしいのだが、ガス器具で調理経験が多いと使い勝手がガスの方が楽でいい。
にんにくの香りが部屋に漂う。
「う~~~んヤミ~~~♪ 私、このガーリックフレーバー大好き!」
エマの所まで香りが溢れたのか、シガーの香りとニンニクの香りにエマは喜んでいる。
PASTAはIHの方でボイルしている。
細切りのチキンとベーコンを炒め、マッシュルームスライスを豊富に入れた。
全体を炒めて、PASTAソースが出来上がった。
ナオミは調理する私の脇から、小皿とステンレスのトングを両手に「シェフ・・味見していい?」
「ああいいよ、まだ塩気無いけどね」
ナオミは嬉しそうに小皿に少量の炒めあがったソースを取り、フォークですくって口へ。
口の横に付いたソースを舌でちょろっと舐めて、満面の笑み!

「ナオミ、PASTA皿3つ有るかい?」
振り向いてカウンター横を見るともう用意されていた。
ナオミはお茶目に笑っている、手には3人分のカトラリーを準備している。
よく気が付く女性だ。
PASTAが茹で上がったのでフライパンのソースと絡めてあおった。
ナオミはニコニコしながら手元を見つめている。

その時、軽やかなチャイムが鳴ってエマが立ち上がると玄関のフロアから白髪の紳士が降りてきた。
エマのハズバンドsamだった。
「おや!お客さんかい・・・・おおっナオミじゃないか!」
ナオミは走り寄って子供のように抱き付いて胸に顔を埋めている。
samは久しぶりに会った愛娘にメロメロの父親のように、ナオミの頭に頬ずりしていた。
「sam、今日はシェフが日本からきているのよ!」
「おおお~~どうりて旨そうな匂いが玄関からしてたぞ・・・」
片手でナオミの腰を抱きながら、キッチンまで歩いて来てちょうど盛り付け終わった私に大きな手を差し出した。
がっちりと力強い握手。
「よく来たなシェフ、おれの分も有るか?自己紹介は・・・食べてからがいいな!あはは~~~」
「もちろんですよ!たった今出来上がったところだから是非食べてください!」
「あら、3人分しか無いわよ・・・」ナオミが少し困ったように言った。
「ああ・・・俺の分は気にしなくていいんだ、料理してると目で満腹感持ってしまって・・ビールが有るから」
そんなに空腹感も無く、私としては3人に是非食べてもらいたかった。

ナオミは3つのPASTA皿をかっこよく左手一本に乗せてダイニングテーブルに運んでみせた。
びっくりして見ていたら、「私、HOTELサービスのレクチャー受けて、しばらくビバリーヒルズのレストランでウエイトレスしてたの」
ナオミの意外な特技に感心した。
エマの隣にsam向かい合ってナオミが座った。
「さあどうぞ!”鶏ときのこベーコンのスパゲティ”」
3人同時にフォークに絡め食べ始めた。
頬が緩んで、目が笑っている、美味しそうな顔に変化した。
「こいつは~~~~すごい!こんなPASTAはLAのイタリアンレストランでも喰った事がないぞ!」
エマとナオミは目でうなづきながら、黙々ととフォークを動かしていた。
samは数口食べると椅子をけるようにいきなり立ち上がり、小走りに下の階のほうへ行ってしまった。
私がその後姿を唖然と見ていると、エマとナオミはくすくす笑っている。
「どうしたんですか~~^?」
「彼の・・・いつもの癖よ・・・・」エマが歌うように言った。

samがワインボトルとグラスを片手に4つ下げて足早に戻ってきた。
「これが有れば、更にうまいぞ!」
ワインオープナーを鮮やかに動かし、キャップを断ち切りスクリューをねじ込んだ。
手慣れた洗練された動き、コルクを外すと鼻にもってゆき香りを嗅ぎ、グラスに注いだ。
手早く4人の前に赤ワインが注がれた。
「我々の健康と輝かしい未来に!そして・・・ナオミといい男に!」
samは茶化して言うとワインを飲みほした。
旨そうにワインとPASTAを楽しんでいた。

私はビールは飲み干していたので、samが注ぐワインに切り替えていた。
カベルネソービニオンの重厚な味と香り、ふくよかで高貴、ナパのロバートモンダビ”オーパスワン”だった。
どうりて旨いわけだ。

An Introduction to Opus One Winery

[http://www.youtube.com/watch?v=6kR5jGs1aCQ:movie]

samはリアルエステートの会社を経営していた。
がっちりした体格と立派な鼻、白髪が豊富で白い髭が良く似合い品が有る。
先祖はイタリア系の移民で、御爺さんの代から3代目で立派なファミリービジネスに成功している。
いくつもレンタルビルを所有し、郊外に数か所ショッピングモールを所有したオーナーだった。
先妻を若い時に亡くし、エマとは再婚であったが子供が無くナオミを実の娘のように可愛がっていた。

Samはナオミにいつも暖かい眼差しで語り掛ける。
「ナオミ・・・もし都合が合ったら、またツアー手伝ってくれないか?」
話をさえぎって、母親のようにエマは言った。
「ナオミはモデルの仕事とバイクショップ手伝っているんだから・・・駄目よ無理言っちゃ」
「スケジュールが合えば2~3日だったらだけどOKですよ・・・ダディ~^」
ナオミはsamの弱みを心得ている。
ダディの一言で、Samの顔がでれでれになる。
「ツアーって?何か旅行関係でもビジネスなさっているのですか?」
Samは意外そうな顔で言った。
「なんだ・・・ナオミとまだ付き合い浅いのかい?以前からナオミは俺の趣味でやっているダイビングSHOPのインストラクターさっ・・」
また意外性に驚いた。

Samはヨットやクルーザーも所有していて海で遊ぶのも趣味の一つ、ボート関連の友人の息子さんが経営するダイビングショップのスポンサーだった。
Santa Catalina Islandへのダイビングツアーにナオミはたびたび駆り出されていた。
ナオミは教え方が上手で人あたりがいいから、とても評判がいいそうだ。

ナオミは撮影で訪れた南の島で遊びで始めたダイビングに目覚め、数年後にはなんとインストラクターのライセンスまで取得していたのだ。
「わぉ!ナオミ・・・びっくりだよ!スポーティーなモデルさんとは思っていたんだけど、すごいね!」
「まあねっ・・・水中のモデルって意外とやる人が少ないので、結構オーファー有るのよね」

この親子のような3人と会話していると楽しい。
みんな結構いける口だ、PASTAとワインの取り合わせも良かったようで、samはまた階下に2本目のボトルを取りに行った。
「ダディは・・・奥さんよりワインに惚れてるのね!」
「まったく・・・・飲んでばかりいるわ・・あの人・・・まあでもいい趣味よ、下に専用のカーブまで作って・・・」
エマはシガーに火を付けた。
「彼はワイン、私はシガーね・・お互い好きなものは好きなのよ!でもあの人・・・タバコは止めたのよ」
ちょっと苦笑してエマは続けた。
「なんで止めれたと思う?・・・・彼の会社の美人スタッフたちに、社長・・社内は禁煙にしましょうって言われて・・それで・・
あの人らしいでしょ、まったくいい歳したBOYねっ・・・あはは~~」
エマは豪快に笑った。
素敵な御夫婦だ、お互いを尊重しつつ趣味も豊富で、人もうらやむリッチな生活。
しかし、何の気取りも無く今日知り合ったばかりの私をまるで娘の彼氏のような感じで接してくれる。
2人とも私やナオミを見る目が穏やかにゆったり優しくて、自分もこんな人生を目指してみたいと思うほどだ。

ちょっとワインカーブを覗きに行ってみた。
女性二人は何か昔話に華が咲いていた。
Samは私の足音に振り向くと、薄暗いカーブの奥へいざなった。
木製のラックに重厚なクラシック煉瓦の壁の意匠、整然と並ぶ様々なラベル。
個人宅のワインカーブとしてはとても洗練されて立派なものだった。
シャンパンは透明な大きな1枚ガラスで仕切られたコーナーに有り、そのまま人が入れるウォークイン冷蔵庫だ。
「素晴らしいコレクションにふさわしいカーブですね!」
Samは手にした1本を眺めながら、嬉しそうに鼻を擦った。
「こいつのワイン嗅覚が敏感でね!いいワインを嗅ぎ付けるのさっ!・・・
・・・・さっ・・お嬢様達がお待ちかねだ」

[f:id:max6:20130710180152p:image:w360]

テーブルに戻ると早速鮮やかに抜栓し、新たなグラスに注いだ。
芳香が漂うが先ほどのオーパスワンとは違う。
「スタッグスリーブ・・・これもNAPAの宝さっ・・・」
旨い!
同じカベルネソービニオンでも微妙に異なるが、それぞれに個性的。
「俺のカーブは個性的な美女揃いだろ!・・・おまけに今日は2人も美女が一緒だし早めに帰って来て正解だな・・・」
「あらあら・・・めったにお褒めのお言葉頂けないのに、ナオミが居ると饒舌なおじさんなんだから・・・」
二人の掛け合いのようなやり取りを見て、ナオミがくすくす笑っている。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130719/1374223546:title=つづく]

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130712/1373626982:title=前文へ]

初めて訪れたこの素晴らしいロケーションの家。
とてもフレンドリーで古くからの知り合いのように接してくれるエマ夫婦。
ふくよかなワインの酔いと、軽妙で楽しい会話と笑い。
ゆったりと家庭的な雰囲気の中、とても解放された自分が居た。

不思議だ・・・・
アナハイムのホセの店でナオミと会い、マルホランドへいざなわれエマに会った。
そして思いがけなく料理までして、samに会い素晴らしいワインと微笑みに満ちただんらん。
ここ数時間で何か私の人生が凝縮されてどんどん違うベクトルに進んでいくような?
タイムラインの進行が早くそれでいて不思議な安堵感が有り、懐かしい家族の記憶が心の奥から
掘り出され、温かい陽光に照らし出される。
この感覚は新鮮だった。
ナオミの口元の軽い微笑が、まるで魔法のように私を翻弄しつつ楽しませている。

カベルネソービニオンの芳香の中にワイングラス越しに見える何か、もし未来を見るすべが有るなら今この瞬間に
私は見る事が出来るのかもしれない。
幻影であってもこの時間のたおやかな記憶は永遠に残るだろう。

広大な太平洋の海はいつの間にかダークブルーからグレーに変化し、陽光がオレンジのベールを添えレッドからイエローの彩光を放ちながら
静かに銀色のシャドーをまとわりつかせる。

海はいつも変化する、変化する事が普遍なのだ。
立ち止まってはいない、刻々とその表情を一瞬たりとも制止させない。
時間が駆ける・・・
その時間を海面から飲み込んで誰も知らない深海に引きずり込んで、未知の巨大な海獣に喰わせるのだ。

記憶というメモリーもちっぽけなプランクトンに過ぎない。
また、朝が来て陽光が充ちれば再生された生命となって新たにうごめきはじめる。
時間が人生と呼べるなら、再生のプランクトンは記憶だ。
夜の時間に世界中の多くの記憶が、マリンスノーになって沈降して、深海の光の届かない深みにたまってゆく。
歯の無い不気味な怪物が、大口を開けて奪うように咀嚼しているのかもしれない。

海は怖い存在・・・

[f:id:max6:20130717110555p:image]

「もう日が沈む、テラスで呑まないか?」
2本目のワインもいつの間にか空になり、samはまだ飲み足りないようだ。
レディースは、ファッションの話題か何か楽しそうに二人で話している。
エマのナオミを見る瞳は本当の母親のように慈愛に満ちた優しい光を帯びている。
ちょうど夕日の反射がテラスのガラス部分に屈折してエマの虹彩を輝かせているのかもしれない。

samはカルバドスとマールのボトルをカウンターバーの棚から持ってきた。
リビングから大きな一枚ガラスをスライドさせテラスに出た。
白いデッキチェアが丸い木のテーブルにいくつか置かれていたが、2台大き目の天然木を加工したデッキチェアにいざなった。
ニスが塗り重ねられて木目が綺麗に浮き出ている。
座って足を投げ出し、手すりの感触を楽しんでいるとsamが言った。
「どうだい・・・座り心地は、ここでいつもエマと夕日を眺めるんだ、色々な事を語り今日の太陽にkissを送るのさっ・・・」
「素晴らしい時間をここで過ごすのですね」
「俺のお気に入りの作品なんだよ、このチェア・・・手垢と汗がしみ込んでいるだろう」
驚いた、やや無骨ながら個性的な特注のデッキチェアとばかり思っていた。
「コロラドの山荘でひまに任せて日曜大工さっ!いくつか失敗したけど、これは2年目の作品さ」
「わぉ!素晴らしい出来ですね!素人離れしてますよ」
「山荘の近所、ファニチャー会社の社長と仲良くなって、工房にいりびたりさ、これでもPROのレクチャーを少しな・・」
samはブランデーグラスを舐めながら嬉しそうに話す。
「ものつくりは楽しいな、不動産業はレントか売買が多いから俺みたいな仕事人間は創作する事が妙にはまるんだな」

水平線に大型の貨物船のシルエット、沈みかけた太陽が今日の最後の陽光を投げかけている。
トワイライトの時間は短い。
海風がそよそよと爽やかで、上質のアロハシャツのような洒落たアウターを着たsamの襟を微かに揺らす。
横顔の輪郭が威厳があり白い髭がsamの容貌に柔らかくマッチしている。
ハンサムで紳士な大人の男。
自分もこうなってみたいと思った。

男二人、ただ黙って暮れゆく海を見つめブランデーグラスを時々口にする。
こういう時は、会話は要らない。
この時間に身を任す心地よさ。
長い人生のほんの瞬間に過ぎないかもしれないが、海と爽風とブランデー、何も言うことは無い。

静かに静かに、ゆっくりと寡黙に。
何も考えていない、何も気づかわない、何も求めない。
ただ、そこに有る海を眺めるだけ。

samは黙って飲んでいる。
時々、ふと私を見ると、グラスが空になる前に注いでくれる。
ボトルを傾けて、にやりと笑う。
軽く顎をしゃくって目でもっと飲めという。
私は酒に強いほうで、ワインからカルバドス、マールと美酒のリレーでも今日は妙に頭が冴えて
酔うという感覚が無かった。
ただ・・・うれしい事に人に酔っていたというべきかもしれない。
偶然に思いがけない場所で知り合った、美しくチャーミングな魅力溢れるナオミ。
ナオミはまるで、ここマリブまで天空を駆けて案内してくれたビーナスだ。
エマやsamに引き合わせてくれた。

人の生活範囲はたかが知れている。
一つのサークルの中を行き来している。
その範囲内の人に会い、様々なしがらみの中でそれが生きてゆく自分の人生範囲と勘違いする。
しかし、あるきっかけや偶然のイベントが重なって、サークル外に出る事がある。
その場合、自分と新たに関わった人もどこかその人のサークル外を旅していた旅人なのだ。
旅人と旅人が、めぐり合いサークル同士が交わり侵食して同化部分をお互いに発見して、新たな喜びを見出す。
交わった部分は・・・・・
”縁”と呼ばれる。
サークルの円と円がクロスする部分が”縁”なのだ。

「ここにエマと住むようになって・・・本当に海をよく見るようになった。
まあ、そのためにここを買ったようなものだが、・・・夕日に向かってただ見つめる時間が多くなったよ」
Samは目を細めながらブランデーグラスを傾けながら言った。
「・・・この時間が一番落ち着くんだ、たまに好きなJAZZを聞きながらエマと飲むんだ。いつもジョンコルトレーンのバラードだけど
あの曲が最高にマッチするんだ、わざと上の部屋で再生してBGMにすると音量がささやくようでいいんだな~~」
「わぉ!それはわかりますよ~~~サンセットに贈るバラード」
「おおっ!今聞かずともイメージできるのかい。そりゃーーいいや。ところでいつまでこちらで仕事なんだい?」
samは体の向きを替え私の方に身を乗り出して尋ねた。
「まだ綿密な予定は立てていないのですが、今のところ依頼された仕事部分はほとんど終わったので、これからはLAを拠点にして
自分の仕事が出来ればと思っていますよ、可能なら日本と米国をフィフティフィフティが理想ですね」
「おお!そりゃ~~いいな・・また旨い飯を作ってくれるかい?今度はBGM付きでまた呑めそうだな・・あはは~~」
「またおじゃましていいのですか?」
「おお、大歓迎だよ!あんたとは馬が合う。これでも人を見る目は有る方でね・・・」
うれしかった、まだ知り合って数時間だが、この方はすんなりと私のコアにするりと入ってくる、それも自然に。
「まあ、俺の商売からの一つの提案だが・・・」
「なんでしょうか・・・?」ちょっとビジネス的な会話になりそうで少し身を正した。
「Lacienegaのレストランローから1本入ったブロックに古い物件だがコンドミニアムを買ったんだ、
管理人に老夫婦が居ていい物件なんだが、ファーニッシュのシングルに入っていた男がトラブルを起こしてね・・・」
samはグラスを少し傾けて唇を舐めた。
「聞いた話だが、そいつは金持ちのドラ息子で勘当されていて、それでも母親が金を出してそこに住まわせていたんだ
これがとんでもない奴で、ジャンキーで部屋を破壊して暴れて警察騒ぎさ・・・。
損害は母親が金を出してくれたので今は綺麗にリフォームしたのだが、管理人が怖がってな~~、年寄な夫婦もんだから・・・
あんたみたいな外人だけど優しい感じの男が少し住んでくれると助かるんだが・・・」
「えっ・・私みたいな男でいいんですか?」
「あんたさえよければだが・・・・こっちからお願いするので条件は相場の半分でいいさっ、いちいちホテルかモーテル暮らしては
落ち着かないだろ?」
突然の提案に驚いたが、願っても無い好条件だ。
ロケーションもビバリーヒルズ内だがエリア的に都合がいい。

数日後にsamの会社で手続きしてもらうことにした。
がっちりと握手してsamが言った。
「俺もうれしいよ、会社の物件があんたの仕事に少しでも役立って、それと・・・呑みだちとお抱えシェフを手に入れたようなもんだ」
豪快に笑った。

「あらあら・・何がそんなにおかしいの?BOYSの悪巧みは何かしら?」
いつの間にかテラスに来たナオミがsamのチェアの手すりにお尻を乗せて言った。
「ナオミ、彼の仕事ベースを提案したんだ、訳ありの物件が空いていてね・・・」
「あら?どのへん・・・?」
興味深くナオミが私に聞いた。
「レストランローの裏のブロックですよね?数日後に手続しますよ」
Samは大きく頷いている。
「へっ~~^それはいいわね!ロケーションもいいし、レストラン豊富だし、エリア的に安全だし」
「ああ、おかげさまで助かりますよ!これで長期に仕事ができるベースが出来そうなので・・」
「あら・・そうなの?では・・・私の本業でもお役に立てるわねそのうち・・・」
ナオミの目が少し輝いて、じっと私を見つめてそう言った。
どこか心の奥を覗かれたような気がして、瞬間戸惑ってしまった。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130726/1374832756:title=つづく]

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130719/1374223546:title=前文へ]

ナオミはホセに頼まれた用事も有るので、エマに伝えてマリブのこの家から移動しようと言った。
エマ夫婦は少し残念そうなそぶりだったが、samが私のコンドミニアムレントの件をエマに伝えると
エマの顔がパッと明るくなって、私にHUGしてきた。
「まあ、この人もたまにいい提案するもんだわ、ナオミとまた一緒に近いうちに会えそうね!
あなたたちならいつでも大歓迎、ナオミの使っていた部屋もそのままだし・・・・この人といつも2人じゃ
刺激が無くてね・・・・あははは~^」
「おいおい、つまらん爺さんで悪かったな奥さん・・・まあ我々の娘がいい飲みダチとシェフを見つけて来てくれた
ようなもんだ」
samも酒で少し赤くなった顔で嬉しそうに言った。

玄関前でsamはナオミとまたHUG、その二人にエマが抱き付いている。
見ていると本当の親子のようで微笑ましい、里帰りした娘をまた送り出すファミリーの風景だ。

「今日は突然お邪魔して、本当に素敵な時間を過ごすことが出来ました、ありがとうございます」
samはナオミをエマに預け、大きな手のひらで私とがっちり握手した。
「では、レントの件で待ってるぞ・・・来てくれてうれしいよ」
「はい契約に向かいますので、よろしくお願いします」

ロードキングに跨りヘルメットを被った、ついサングラスをかけてしまったが、外は闇に包まれている。
革ジャンの内ポケットにしまいイグニッションON。
重低音のマフラーがマリブの丘にこだました。
ナオミは既にスラクストンに跨り、ゴーグルをかけて私を振り返っていた。

丘陵からも見晴らしがいいので夜の闇に沈む太平洋が見えたが、海岸線を走るパシフィックコーストHWYのヘッドライトの軌跡が光の帯となって
沿岸の境界を照らし出していた。
丘に佇む洒落た邸宅のベランダからも光が洩れ、シルエットが夜の空気をどこかしっとりと滲ませていた。

ナオミがアクセルを開け滑り出した。
ヘルメットの中で白い歯がひかり、エントランスの照明で反射したゴーグルの中の瞳が、エマ夫婦にしばしのお別れを告げた。
エマとsamは腰を抱き合って佇み、いつまでも手を振ってくれた。
私は深く一礼してからスタートし、ミラーで二人の姿が見えなくなるまで視界の隅で確認していた。

ナオミは軽快に飛ばしてパシフィックコーストHWYに出た。
サンタモニカを目指して走る。
丘陵地帯のマルホランドも素敵だが、海岸端のこの道も面白い。
レストランやマリンSHOP、サーファー関連のピックUPトラックも多い。
サインボードやネオン管が美しく、夜の走行も独特の光が流れ過ぎ海風混じりの微かな香りも、日焼け止めのサンタンローションの香料が
含まれているような、日中の陽光の名残も感じてしまう。

都市部に向かうとさすがに車も増えてくるが、車線も走り易い道なの時間帯も有るが渋滞には遭遇しなかった。
WestHollywoodに向かっていた。
やがてサイナイホスピタルの広大なエリアに差し掛かると、低層住宅が木々の間に点在するブロックに入った。
一見、小さい映画スタジオのように見えたが、ナオミが停車してインターホン越しに話し、大きなスライドドアの横
セキュリティーロックが解除されたドアから中に入った。

照明は消されていたが、通路部分の誘導灯が照らす範囲は識別できた。
「少しここでまってて・・・」
ナオミはそう言うと、奥のオフィイスと思われる部屋へ歩いて行った。
内部は思ったより天井が高く広い。
壁面に工作機械が並び、シートを掛けた車が整然と何台も並んでいた。
作業スペースには、丸いクラシックなシルエットのポルシェと思われる車体がジャッキUPされていた。
パーティションで区画されたエリアがあって、そこはオートバイのエリアのようだ。
ドアのウインドウ越しに顔を近づけて見てみると、天窓からの月光が静かに降り注いでいて、いくつものバイクが
黒くうずくまり、エンジンのメッキ部が鋭利な刃物のように鋭く光っていた。
夜に眠る野獣の群れのようだ。
どこかその穏やかな寝息が聞こえそうで、無機質なマシンが鼓動を秘めて命を燃やしているかのような錯覚を覚える。

[f:id:max6:20130724170010p:image]

「おまたせっ!ここのオーナーが居なかったけど、奥様が事務仕事してたので用事は済んだわ」
「ここも凄いガレージだね!」
「ここはお金持ち相手のレストア専門のガレージなのよ、ホセも時々手伝ったりしてるので姉妹店みたいなもんね。
どちらかというとクラシックカーが専門なのだけど、オートバイを持ち込むマニアも多いのよ。何といっても、経費に糸目を
付けないからかなりいい商売になるのね」
「へーーそりゃいいね!どうりてすごいマシンが並んでいると思ったよ」
またガレージ内を詳しく覗いてみたくなった。

ナオミはグローブをはめだして言った。
「今度、ゆっくり昼間に来ましょうよ、見学させてもわえるわ」
「OK、ありがたいな、ナオミツアーコンダクターは優秀だね」
ヘルメットを被りながらナオミはくすくす笑っている。
「今日の私の仕事は終わったから、そろそろ引き上げるわ。あなたこれからアナハイムのホセのファクトリー行の?」
「ナオミはどうするんだい?」
「美味しいワインを頂いて、バイクの運転はOKだけど、少し眠くなったので家へ帰るわ」

まだ、少し一緒に過ごしたかったが思えば今日会ったばかりだった。
どこか古くからの仲の良い女友達みたいな意識になっていた。
そう思い込ませる、心の奥まで浸透するナオミの微笑に魅せられていた。
活き活きした目の動き、少しハスキーな声・・・
しぐさの一つ一つが大人の女性だが可愛らしさも秘めていて、側に居ると心地よく私をくすぐる。

「・・・ホセのファクトリーには行かないのかい?」
「私のHomeはこのエリアから遠くないから・・・」
「よかったら送るよ・・・」
ナオミはくすりと笑っていった。
「後ろからのエスコートはもう十分よ、今日は楽しかったは・・・とても・・エマやsamにも会えたし・・・
・・・そうそう、あなたのPASTA最高だった、またお料理食べさせてね」
ナオミは私の方に少し背伸びするよう近づいて頬を寄せた。
顎のあたりに口づけしてきた。
ふくよかなパヒュームの香が微かに漂い、リップステックと濡れた唇の感触がうれしく少し照れた。
「あら・・?少しはシャイなところが有るのね・・・・可愛いロードキングさん」
「おいおい、大人をからかうんじゃないぞ・・あはは~~」
ナオミは悪戯を見つけた姉のように、少しだけ勝ち誇った表情をしてけらけら笑っている。

「さて、俺も今日はsamさんと付き合っていつもより飲んでいるから、モーテルの方に帰るよ。これから一人で
アナハイムへは寂しいし、美女のエスコートも今日は断られたし・・・」
「おあいにくさま・・・ジェントルマンなライダーさんには、またいつか機会が有るわ・・・see you~~!」
ひらりとスラクストンに跨ると、2~3回スロットルを開け合図するように発進させてブロックの先へ消えかけた。
ナオミは名残惜しむように、見送り佇む私にハザードを数回点灯させて、すっとコーナーから消えて行った。

急に夜の暗さを感じて、見ず知らずの土地に一人取り残された寂寥感が少しだけ取り巻いた。
私は、この国にとってはエイリアンであり旅する旅行者の一人に過ぎない。
今日一日だけで遭遇し、数々の厚遇をもたらせてくれた人々の暖かい空気もナオミが去るとどこか夢の中の物語のように
心の中が委縮し始める。
私は、そんな感情を振り払うようにエンジンをかけギヤを落とした。

つづく

翌朝は早く目覚めた、2階建てのモーテルのパテオが見える1階に部屋を取っていた。
玄関を出るとすぐ駐車場で客室が横並びの建物なのだ。
ロードキングは部屋のカーテンを開けると見える位置に停めて有る。
ここならセキュリティーの心配はない。
LAは有数の犯罪都市でもあるのだ。

パテオには小さ目のプールが有り、パームツリーと庭木でその空間だけさえぎられていた。
日中は家族連れの小学生くらいの子供たちが、キャーキャーと楽しそうに遊ぶ声がこの部屋まで聞こえて来る。
宿泊客のほとんどはプールでくつろぐことは無いが、私はパラソルの下でデッキチェアにだらだらと寝そべり、
好きな小説を読むのが好きだ。
外国に来るといつも江戸時代の侍ものや、戦国時代の武将の小説を読んでしまう。
この異国の環境の中で、そんな日本オリジナルの物語の世界に埋没するのは、なんとも言えない快感がある。

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備え付けの冷蔵庫に買い置きのクワァーズが有ったので、日本から持ってきた本を小脇に2缶持ってプールに来た。
まだ朝早いので誰も居ない。
デッキチェアをリクライニングにして、パラソルで日陰をアレンジした。
朝食はまだだったが、クワーズは軽いティストのビールなのでお構いなしだ。
この時間帯からビール?・・・・そう思う人を否定はしないが、これも私の個人人生のスタイルにすぎない。
ドラッグに手を出しているわけでもなく、軽いアルコールだがモーニングコーヒーと同じようなものだ。
とかく、飲酒責任に厳しい日本と違い、個人の責任オウンリスクが尊重される国ではその自由度を満喫したい。

1本目のクワーズを開けて、小説に没頭していた。
想いは江戸の町に居る自分が居る。

感覚的に映画セットの当時の街並みを俯瞰で見ているような気で読んでいる。
多くの町人の通行人の中に、侍が歩く。
侍は歩く速度と姿勢が町人とは異なる。
2本差しているので腰の据わりと足の運びが筋練された侍は違う。
視線や呼吸も整って頭の位置がゆっくりと平行移動していくようだ。
袴の腰板が有るのでおのずと背筋が伸びる。
これは手練れの遣い手の姿勢をイメージした感じ。
不意の襲撃にも、この侍は余裕をもって体捌きをかけるだろう・・・・
そんな事を小説の行間から読んでしまう。
むしろ読むというより、勝手に想像して喜んでいるのだが。
この異国の空間、それも早朝のプールサイドで軽いビールを飲みながら膨らませるのが
何ともおもしろい。

この手練れの侍は敵と狙われている。
敵となる所業を侍はおかしていた。
父母を殺され、家に火までかけられた少女が成長し厳しい修行に耐え、女流剣士となって
かたきを探し、長い旅路の果てにこの侍と遭遇する・・・そんなストーリーだ。
断髪し、きりりとした美丈夫な女剣士、一見若侍に見えるがそこは成熟した女性。
そこはかと色香が出てしまう。
ただ、本人は親の敵を討つ為に、女性的な優しさやたおやかさをひた隠しに剣の道を生き
一途に思い極め、多くの葛藤を抱えながら侍の足跡をたどり旅をしてきたのだ。
3年の月日を費やして、やっと敵の後ろ姿が垣間見られたが、援助してくれた親戚筋からも
女だてらに敵撃ちの所業を決して良くは思っていない。
女流剣士は世の情けの果かなさと、己の命運に心中は悩み、敵討ちの空しさも感じ始めていた。
その矢先についに敵を目にとらえたのだ。

小説の先を読み進めようとしたが・・・・
ページを伏せてビールを飲んだ。
ふと揺らぐプールの水面をぼんやりと見て気が付いた。
私の中で、女流剣士の面影がナオミと重なっていたのだ。
小説の中の舞台は江戸期、侍のナオミは敵討ちで一途に敵を狙っている。
イメージの重なりは不思議だ。
異なる世界が自分の心の中でどんどん創作して形成してゆく。
ナオミの存在が、いつの間にか私の心の中を大きく侵食しているようだ。
もう小説にしおりをして、読むことは今日は止めた。

部屋に戻り、依頼された仕事の報告と資料、画像ファイルを大量に日本へ送付した。
東京の商業関連の広告代理店との関係が深い。
たまたまその会社のオーナーが親族という事も有り、仕事は忙しかったが依頼は切れなかった。
ほぼフリーで飛び回っている方が自由で気楽なので好きにさせてもらっている。
午前中は仕事に没頭した、PCでの作業がほとんどだし作業ははかどった。
午後からはバイクをホセに返し、レンターカーと機材を戻さなければならない。
とんぼがえりにSamの会社へコンドミニアムの契約内容を確認し、OKそうなら手続きまで済ませたい。

早めにホセのファクトリーに向かう事にした。
グローブをはめイグニッションをONにしロードキングを眠りから起こした。
昨日のナオミとの楽しい時間を共に過ごしたバイク、どことなく借り物だが自分の愛車のような気もしてくる。
ホセのファクトリーをナオミをフォローして乗り出した時は、慣れるまでしっくりこない感じも有ったが、
さすがに今日は自分の体の大きな一部のような、このマシンが臓器を持った筋肉化して体に同化していた。
車ではこの感覚が得られないと私は思う。
2輪ならではのこの感覚、息の合う現代の馬といっても過言ではないだろう。
乗り手の癖を見抜き、駄々を捏ねないところがまたマッチングする要素。
寡黙だが、乗り手の技量でいかようにも変化しそうなパワーを秘めている。
明るい陽光に今日も照らし出された、ウィルシャーブルバードを多くの車が流れる。
その中をバイクで流す私は、このマシンに愛情に似た微かな感情を既に芽生えさせていた。

こいつと共にどこまでも遠く走ってみたいと思った。
このマシンはきっと人と人を繋ぐ、その新たな出会いに更なる乗り手の人生が大きくドアを開けるのだ。
昨日はそのもっともたる効果ではなかっただろうか?
たった1日で人の人生は変化する。
たった1日が新しい世界を目の前に提示してくれる。
無数のドアが膨大に存在し、今私はそのドアの前に立っているのだ。
ドアノブの前までこのマシンが案内してくれた。
そのドアの向こうは誰も解らない。
どのドアをチョイスしOPENするのか、それすらわからない。
ただ、私は・・・・
何か自分の欲するものが先に有りそうなドアを、ランダムに開け続けているのかもしれない。
しかし、そのドアから先に足を踏み出さないまま、ただ佇みその時点で目に映る虚構の世界に惑わされているのかもしれない。
可能なら深く足を踏み入れ、先の世界を貪るようにこの手で掴んで行かなければ何も得られないのかもしれない。
全てが未知で、不安で、暗黒で、軽い恐れも心のどこかに生じてしまう。

ステート10から5へ、今日も順調に車が流れている。
数マイル先のインターあたりをLAPDのヘリが低空で旋回している。
接近して現場が見えると事故のようだ、路肩の壁面に側面を擦ったマイクロバスが停車して
既にハイウェイパトロールとアンビランスカーが来ていて、見物渋滞が発生しそうな車線を規制していた。
日本では考えられないが広大な面積を持つLAエリアではヘリの活用が多い。
恐ろしい低空で滑空する姿は何回も目撃している。

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夜中に自宅の芝生でゴルフの練習をしていた友人は、パトロール中のヘリに上空でホバリンぐされ
強烈なサーチライトを照射されたと話していた。
ゴルフクラブをヘリの乗員に見えるように差し出し、手を振ると現状を確認して去って行ったらしい。
赤外線カメラや最新の装備で、夜でもかなりな視野を誇っているようだ。

事故現場周辺は低速で規制されたので、現場は良く見えた。
首にコルセットされた老人が担架に乗せられたところだったが、重篤ではないようだ。
また上空に今度はTVクルーと思われるヘリも来ていた。
派手なカーチェイスシーンなど、こんなヘリ部隊がよく撮影していた。
大事件ではないと確認したようで、少しホバリングしていたかと思うといつの間にかいなくなった。

渋滞域を抜けると快適に飛ばし、ホセのファクトリーに向かった。

ホセのファクトリーの前に駐車すると、ロードキングのマフラー音を聞きつけて大きなスライドドアの隙間から
出てきてくれた。
「ヘイ!ロードキングマン、ナオミの洗礼を受けたんだって?」
笑いながら、髭ずらを撫でて嬉しそうに言った。
「ホセ、キングは最高だったよ!おたくのお嬢さんのガイドは・・・・Incredible!」
「はっはは~~エマと会ったんだね・・・あの夫婦は最高さ!」
「成り行きでPASTAまで作る羽目に・・・・」
「おおおっ!聞いた聞いた!おまえさん、俺にも作ってくれよな~~~、出来たらミケロブに合うPASTAがいいな」
ホセは大食漢だ、舌舐めずりしながらむしろ強制的な威圧命令調で言う。
「はい、セニョールホセ、どうせならガーデンパーティでも・・・まとめて皆さんにサーブした方が楽かな?」
「おおおおお~~~そりゃーーいいアイデアだ、あんたが日本に帰国する前にセットしてみるよ」
ホセはすぐにパーティの思案を考えているようだ。
私は、samとの成り行きでまだ半分だがLAに腰を据えて仕事しようと構想が有って、偶然にもsamの提案でベースができそうだった。
ホセに今後の予定と、しばらくこちらに居る計画を伝えた。
ホセはもろ手を上げて喜んでくれた。
「おおお~^!まかせておけよ、お前さんが居る間はバイク・車の心配はするなよ。まあ、ただとは言わんがメンテ費用分くらいで
面倒見るぜ、どうだ、いい提案だろ」
「すごいBIGディールだよ!精々ホセさんの要求に答えられるようにするさっ・・・!」
「OK!セニョール、交渉成立だ!」
ホセは大きなエンジンOILだらけの手を差し伸べたが、私はためらわずがっちし握手した。
お互いに握力を感じるような熱い男の絆、ハートの鼓動がシンクロした気がした。

「ヘイボーイズ! 何をうれしそうにシェイクハンド?」
スライドドアからナオミが顔を半分出して言った。
昨日の礼を言おうとドアの中に入ろうとしたらナオミが出てきた。
そこにはバイクファクトリ―のガレージに似つかわしくない姿のナオミが居た。
黒のハイヒールに細身のテーラードスーツ、大き目のカラーの白いブラウス、少しアップ気味にヘヤーを変えて
まるでCBSの番組に出て政治解説する、ホワイトハウス報道官のようないでたち・・・・
昨日のカフェレーサー60ty’sの姿からは想像出来ない変わりようだった。
いくらモデルが本業とはいえ、衣裳でこれほども変わるのか。
「なにを・・・ポカーンと見とれてるの?さては・・・私の魅力で眠れなかったのねっ・・・あはは~~」
「はいはい、そうですとも、あまりのツアーガイドの見事さに舌を巻き、御衣裳のマッチングに目を奪われた、迷える子羊ですよ~~~」
「あらあら・・・私・・・ローストラム好きなのよ!食べちゃうわよ~~あははは」
「こんな…身でよろしければ、いつにてもナオミお嬢様に捧げますよ~~~!」
「まっ・・・・もう少し、フィーディングしてからエージングね!食べるのはその後でも、美味しいわっ・・あはは」

お互いに冗談を言い合いながら奥の事務所へ向かった。
まだ昨日の続きが待ち受けているようなワクワク感・・・
ナオミのこの空気感、存在感は私をリラックスさせつつも、どこか冒険に誘うような昂揚感をじわじわと刺激する。
大人の女性の中に、お茶目な可愛らしさが有って悪戯な天使がこちょこちょと笑顔で飛び回りくすぐっている。

[f:id:max6:20130809233212p:image]

人の魅力とは何なんだろう?
磁力のような目に見えないパワー?
何か磁極が有って、プラスとマイナスが引き合うような・・こちらにも迎え入れる何かの要素が無ければ
それが魅力では無くなるはずだ、魅力として感じないはずだ。
私にはナオミにおおいに魅かれる大きな磁極が埋まっている。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130818/1376832018:title=つづく]

ナオミがコーヒーサーバーからマグカップに注ぎ入れ、私に渡してくれた。
見ると、キティちゃんのイラストが描かれたカップで、くすりと笑ってしまった。
バイクファクトリーの男っぽい事務所に、不似合だがきっとナオミがわざと揃えたのだろう。

「いいでしょそれ!リトルトーキョーでスワップミート開催している時に見つけたの、日本の
駐在員ファミリーだったわ、娘が大人になって嫁いで使わなくなったからって・・・年輩の
お母さんが話すのよ・・・とても話好きな御婦人で、私の事を気に入ってくれて、全部まとめて
キティちゃんマグ購入してって・・・1DZも有ったのよ、でも破格のプライスであなたに買ってほしいからって」
「ほほ~~~ナオミは御婦人にも人気だね~~~」
「買ったらとても喜んでくれて・・・・・それがねっ、ビジネスカードお渡ししておいたらここにも遊びに来てくれて
車の修理依頼まで・・ホセは車も見れるからいいのだけど、その方の友人にまでここを紹介してね、いまでは親戚のお母さんみたい」
「それはすごいね!ナオミはいつの間にか営業しているんだね」
彼女の笑顔は人を惹きつける。天真爛漫なフレンドリーさをみんな好むようだ。
「たまに、おばさま方がここにいらしてケーキやクッキーをファクトリーのみんなに持ってきてくれるのよ、
キティちゃん達、大活躍ね!」

ホセも加わり、オフィスで3人で会話した。
相変わらずホセのスタッフは黙々と熱心に仕事に没頭していた。
ナオミは彼らにもコーヒーを入れたキティちゃんマグをこっそりとデリバリーしていた。
スタッフはナオミに敬意をもって接してる、彼女にはごく自然に人を気使う細かなサポートにみんな感心しているのだ。

「ホセさん、レンタカー預かってくれてありがとう!これからLAベースの契約に向かいます」
「おお!そうか・・・そうだな、そっちが先だな・・・俺は・・・PARTYの事しか頭に無かったよ・・・
・・・そうだ!キングはどーーーすんだ? あのまま使ってくれても構わないぜ」
ホセはオフィスの窓から見えるバイクの群れから、ロードキングを顎でしゃくって言った。
「本当にありがとう!今日は無理ですが、またお借りしに戻りますから」
「そうか!・・・ではベース確保して落ち着いたらナオミを迎えにやるさ、取りに来るといい」
「はい、ありがとうございます。少し日本の仕事を調整して必ずお借りしに来ますよ! やはり乗ってみてあのバイクはこの地には
最高にマッチしてますね、まさにアメリカンロードの為のバイクといった印象を受けました」
「おおお~^なるほどな~~~~俺は職業柄、色々な国のバイク扱うが最近は日本のバイクが妙に魅力的なんだ、お客にもぞっこんの
奴が増えてきてな、日本メーカーとのやり取りも多いのさ」
確かに、地元バイカーが集まるカフェに行くと日本車が多くなっている。
「最近のバイクは診断PCに繋いで内部データを見るんだ、それで故障個所の把握が可能なんだな。
昔ならいじくって簡単に直せたもんだが、最近のシステムはそんなもんなんだよ、もっともキャブ装備なら
まだ問題無いのだがね・・・・」

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130823/1377258461:title=つづく]

ホセから預けていたレンタカーのKEYを受け取り一旦モーテルに戻る事にした。
ナオミは電話でお客と事務的な話をして忙しそうだった。
仕事の邪魔をしないように、そっと近づき軽く手をあげた。
ナオミは受話器を肩にはさみお客との会話はそのまま、私の手首を軽く握って微笑みながらウインクした。
口元が私に向かって無言でゆっくりリップシンク・・・
「See you ! I will get you」と読めた気がした。
ナオミはニヤッとお茶目に笑いながら胸元で手を振った。
その手に手のひらを合わせてみた、少しだけ指を絡めてくれた、うれしかった。

LAに向かって走り、そのままsamの会社へ向かった。
一応アポイントメントを入れておいた。
電話がつながり用件を告げると、事前に私の事は知らされていたようでとても丁重なビジネス英語で
明瞭な女性の声で応答してくれた。
こういったところにもsamの会社の堅実な運営が感じられ、これから訪問するこちらとしてもどこか
身が引き締まった。
今日は契約なので、軽いサマージャケットを黒いポロシャツの上に羽織っていた。

ナビが導いたのは、芝と緑に囲まれた公園のような一角だった。
大きな近代的なビルが社屋と思っていたので、道を間違ってしまったかと錯覚した。
どこかリゾート風の洒落たテラスのある平屋だが、大きなガラス面やサンシェードのある庇が特徴が有った。
広いウッドテラスには白いテーブルやベンチが配置され、そこにも巨大な樽のようなプランターに様々なプランツが飾られ
ブーゲンビリアやハイビスカスの鮮やかな花も添えられて緑の中に一際引き立っていた。

社員と思われるカップルが、かっちりしたスーツを着てラップトップPCを前に、顧客とみられる初老の夫婦ににこやかに対応している。
LAの日中の日差しも、木々の枝葉やベージュのキャンバス地のパラソルが、心地よい日陰を作っていた。
室内よりこのテラスの屋外の方が気持ち良さげだ。

テラス横のアンティーク煉瓦を埋め込んだと思われる歩道を少し歩き中に入った。
薄いベージュ色主体のホールになっていてセンターのガラスのテーブルの上には、前衛作家が活けたような
カーラーとフォックスフェースの大きなオブジェ状の活花があった。
白と緑の茎の曲線と黄色の織りなす空間エントランス、素敵な演出だった。

どこからともなく、タイトな黒いスーツを着たブルネットの髪をおかっぱのようなカットにした若い女性が満面の笑みで
私の名を確認して現れた。
「samから伺ってますわ、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ヒールの微かな靴音が床の大理石と思われる通路に響く、渡り廊下のような通路に陽光が建材のスリットを抜けて外の緑と相まって
このエントランスも美しい。
その先は大きなホテルのロビーのような、天井が高い空間になっており、豪華な家具があちこちに配置されていた。
やや高くなったコーナーにはグランドピアノまで設置してあった。
ちょっとしたJAZZコンサートをプライベートで出来そうな空間だ。

いくつもある応接セット、そのどれもが同じ物が無い。
色々な国の高級家具と思われるが違和感無く、シックにまとまっている。
ここがリアルエステートの会社本社かと、思わず不思議な気になる。
まるで全てが良く考えられた作りで洗練された雰囲気と空間を演出していた。
外のグリーンや彩光の変化まで計算されて、居心地よく寛げるコンセプトの見事さに感心していた。

ブルネットの女性が、ソファのひとつに案内してくれた。
「samはすぐにこちらに来ますよ、何かドリンクをお持ちしましょうか?」
「ありがとう、さっき車の中でコーヒーをがぶ飲みしてるので・・・あなたの笑顔だけで満足です・・」
彼女はくすりと笑って「あら、私のスマイルにそんな効果が?うれしいですわっ・・・では少しお待ちを・・・」
チャーミングな社員さん。後ろ姿に見とれてしまう。

「おお~~シェフロードキング、よく来たな!」
奥のドアからsamがニコニコと現れ、HUGしてきた。
シェイクハンドよりうれしかった、家族のように迎えてくれた気取りの無い対応に感激してしまう。
「Samさん・・・すばらしい社屋ですね、びっくりしました」

今日のSamはシックな光沢のある濃紺に白いピンストライプのスーツ、山吹色のネクタイに黒いドット柄、日に焼けた笑顔と白い髭に
とてもマッチしていて洗練されたおしゃれだ。
タイピンがミッキーマウスとミニーがダンスをしているGOLD製品。
タイのドットも良く見るとミッキーの黒いシルエットが、いくつもおりなすものになっていた。
遊び心があってセンスの良さを感じる。

「ああ、ここもある意味、我が家だからな・・・俺や社員が家族でお客がゲスト・・・そんなコンセプトで作ったんだ」
「近代的な高層ビルをイメージしていたんです・・・」
「あはは~~そんなものはどこでもある景色さ、広大な土地に自然をあしらい低層の環境に配慮した社屋の方が、ある意味
贅沢なんだ。ここは顧客にも評判がいいぞ。あのテラス見ただろ、時々仕事に関係なく訪ねてくれる顧客もいてな、リラックスして
呑んだりすることも有って、また新しい関係に発展したりもするんだよ。お互いにビジネスのメリットを見出せるんだな~~」
「素晴らしいですね、ここにいるとどこかリゾートの施設のようで・・・」
Samはうれしそうにうなずきながら、社長室に案内して歩き出した。

社員の居る空間はちょっとした宇宙指令センターのような明るい空間になっていた。
大きなモニターと大小のデスクトップが並んでいて、ここはリゾートで寛ぐようなファッションをした
男女が熱心にキーボードとモニターをチェックしていた。
パーティションは無く、広いスペースに各自大きなWOODデスクを個性的に使っていた。
無機質になりそうなオフィスも天然木と鉢植えの巨大プランツ、外周の壁面にはPOPアートと思われる明るい色調の絵が
美術館のように配置されている。
絵画の間にはサービスステーションのような小カウンターとバーチェアが備えられ、スターバックスで見るような
エスプレッソマシンが設置してあった。

トレーニングジムの帰りのようなウェアの女性2人が大きなマグカップ片手に話し込んでいた。
Samを見かけると二人ともシンクロするように胸の前で小さく手を振った。
「可愛い娘達さ・・・あれでも優秀な営業レディさっ・・・・ノルマは無いが目標以上の成果を上げれば、うちは自由さ
奥にトレーニングジムが有って好きに使えるようにしている。勤務時間に遊んでいるように見えるが、切り替えも早いぞ
びしっとビジネススーツでおしゃれして大手企業のおやじどもを差し置いて有利な契約を取ってくる凄腕さ・・」
驚いた・・・こんな会社様式も有るのかとその発想の斬新さと、雰囲気にのまれた。

大きなリゾートホテルのレストランエントランスみたいな、木製の手彫りのレリーフがあしらわれたドアを開けると
そこがsamの部屋だった。小さ目の一戸建てが入りそうな広さだ。
センターに中庭が有り苔むした巨岩にシダのような観葉植物が絡み、岩の割れ目から清水が小さな滝を形成していた。
天井部分は天窓から太陽光が降り注いでいる。
滝は渓流のように巨岩を走り、厚いアクリル水槽に下部が形成されていて中を錦鯉と思われる魚が
万華鏡のパーツのようにカラフルに泳ぎ回っていた。

黒いイタリア製と思われるソファとテーブル、間接照明には壁面の戦国絵巻みたいな絵画が豪華に浮かんでいた。
外には大きなスライドガラスをブラインドが覆い、上部はバンブーの質感の有るシェ-ドになっていた。
円形のマホガニーのようなディスクにモニターが3台設置され、近代的なリクライニングと背もたれが斬新な黒いチェアが
社長の椅子だった。

素晴らしい部屋に感心して眺めていると、どこからかノックする音・・・
samが答えると、今まで壁と思われた一面が開いてブルネットの社員がトレイに飲み物を持ってきた。
目を見張っていると「samからお客様へとこれを・・・・・」そう言いながらテーブルにコースターを置いてオールドファッショングラスを置いた。
彼女は私に軽く一礼するようににっこりして、samに伝えた。
「いつでも用意は出来ていますので、お帰りの時に下のエントランスで」
「ああ、ご苦労様、一応書類は持参しておいてくれ・・・では15分後くらいで・・・」
samはそういうと彼のグラスを受け取った。

「さあっ!これも旨いぞ・・・」
samは、またマリブの自宅のように私に顎で促して酒をすすめた。
「オールドグランダッドだっ・・・オフィスではあまり飲まんのだが、お前さんとなら呑みたくてな・・一杯だけだが・・」
綺麗な透明な氷にトリプルのロックでなみなみと入っていた。
お互いに目の高さまでグラスを上げ口に含んだ。
目と目が合い、目じりが下がる、旨い。

いつの間に・・・
Samは、ブルネットの社員に私が来る前からこの酒のオーダーまで指示していたようだ。
「お忙しいのにお邪魔して、旨い酒まで・・ありがとうございます」
「気にするなよ、ここは我が家の延長さ・・・後でジュディが物件に案内するから、気に入ったらサインしてくれ。
俺はあいにく、州のお偉方の御機嫌取りでちょっとした会合に出向かなきゃならんのでな」
細やかなsamの気使いがありがたかった。
これだけ素晴らしい会社のオーナー社長が、昨日知り合ったばかりの私に親切に応対してくれている。
「はい、ありがとうございます。何から何までお手配に感謝します」
「まあ、おまえさんが契約するのは間違いないとして・・・あはは~~、引っ越しして落ち着いたらナオミを差し向けるから
パーティだぞ!あんたの料理が楽しみなんだ、寝る場所は心配するなエマも待っているのだからな」
「はい、わかりました。落ち着き次第またマリブの御自宅へお邪魔させてください」
Samはグラスのバーボンを舐めるように呑み、ゆっくりと頷いた。
スーツ姿でこの会社の主、成功した男の威厳のある姿。
しかし何の気取りも無く、友人のように接してくれる。
ありがたかった。

グラスを飲みほし、がっちりと握手した。
samはまた自然にHUGしてくる、かるく背中をぽんぽんと叩くとにっこり離れた。

背後にはブルネットのジュディが立っていた。
「お車の御用意しておりますので物件まで御案内します」
事務的だが、柔らかく言う彼女の言葉に従いsamの部屋を後にした。
振り向くとsamは仕事上の話か、電話を耳に何かメモしていた、私の視線を感じて片手で合図を送ってくれた。
忙しい中、貴重な時間を割いてくれていたようだ。

ジュディに案内され、エレベーターで地下のパーキングへ向かった。
通路には靴底が感じる毛足の絨毯が敷かれている。
ゲスト用の地下エントランスだった。
車寄せにはピカピカの新車、レンジローバーが私を待っていた。
ドライバーが居るのかと思ったらジュディが先に立って後部ドアを開けた。
私は助手席が好きなので、ジュディに断わってそちらに座った。
運転席には彼女が慣れた感じで颯爽と座った。

ジュディはジャケットを脱ぎ白いブラウス、サングラスをかけハンドルを操ると地下のエリアから滑り出した。
一連の動作がスポーティで美貌と相まって凄くかっこいい。
「15分ほどの距離ですがオフィスに使うならいい物件と思います」
淡々と話す感じは、さすがに不動産会社社員の雰囲気だ。
「このお仕事は長くやられているの?」
少し興味が有って聞いてみた。
「まだまだニューフェースですね、2年になりますが毎日が勉強です。でもとても楽しいので・・」
「samさんは面倒見がいいから、素敵な会社だし・・・」
「はい、私もシニアマネージャークラスで大きいお仕事が出来るように頑張ります」
ジュディは意欲的に話してくれた。
「そうそう・・・会社にジムが有るんだってね」
「はい、samが経営する会員制のフィットネスが隣接してるんです」
「へ~~samさんは商売上手だね・・」

車はビバリーセンターを抜け1ブロック裏の住宅街に進んだ。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130831/1377906983:title=つづく]

パームツリーが並ぶ明るい住宅街にレンジローバーが入った。
低速で町並みをゆっくり見せてくれた。
「綺麗なエリアですね、ここはビバリーヒルズの境界に近いですが東コーナーになります」
ジュディ―はサングラスを少し鼻に下げて上目遣いに左右の建物を見ながら説明した。
白いブラウスに胸のラインが綺麗で、やや日に焼けた肌から白い歯がこぼれる。
こんな魅力的な若い社員を抱えるsamがうらやましく思った。

やがて大きな地下へ続くスロープの前で停車した。
「車の中でお持ち願いますか・・・管理の方にお会いしてパーキングのリモコンと部屋のKEYを持ってきますので」
ジュディはそう言いながら、車から降り後部座席から脱いだジャケットを取り出し、さっと羽織った。
一連の動作が、このビバリーヒルズの住宅街の風景バックで一つの絵のように流れて、LAの陽光をまとうようで
素敵だった。
カメラを持ってくればよかったと、少し悔やんだ。

このビルは地下が巨大な駐車場で
4階建てのコンドミニアムのようだ。
通りに面した側にテラスが連なり、薄いベージュ系の外壁と庇がこげ茶でそれが、パームツリーの緑とサイドウォークの
大きなリュウゼツランやその周りの観葉植物のグリーンと相まって、落ち着いたセンスのいい外観を形成していた。
建物自体は古いのだがしっかりとメンテナンスされていて、居並ぶこのストリートのビル全体が町並みのおしゃれ感を
壊すことなく調和して形成されていた。
歴史は感じるがモダンな洗練されたコンドミニアム群メインの通りのようだ。
すぐ側には主要なブルバード、ウィルシャーとレストランローと呼ばれる高級レストランが多い大通りも歩いて出られる距離だ。

[f:id:max6:20130830183737p:image]

ジュディは手にしたリモコンを掲げてみせた。
運転席に戻ると作動させて地下駐車場へのスロープのゲートを開けた。
そのままレンジローバーを乗り入れ、奥まった駐車区画に停車した。
「ここと、隣が今回の物件の駐車区画で指定されます」
車社会なので駐車場は当たり前のように賃貸料に含まれる。
どこかの国のように、狭い区画を高い料金で割り当てたりしない。
車から降りて、見まわすと軽く40台は駐車できるスペースの地階駐車場だった。
スパンが広くビルを支える柱も間隔が有るので、視界を遮らない。
視認性をよく考えられていて車の出し入れは楽そうだ。

奥の中央部にエレベーターが有り、両脇のコーナーには階段が設置してあるようだが
ドアで区切られていた。
エレベーターは6人乗りくらいの小さいものだが、綺麗に整備されていて床にはいい素材の
カーペットが敷いてあり靴底の感触がいい。
ジュディは3Fのボタンを押して案内した。

エレベーターを出ると、そこはコの字型の回廊になっていて各部屋のエントランスが見える
見下ろすと小さいパテオ部分にプールが青い水を満々と光らせていた。
ショートパンツにタンクトップ、サングラスをした女性がデッキチェアで雑誌を読んでいた。
5歳くらいの女の子が浮き輪にぷかぷかと遊んでいる。
のどかな風景に午後の陽光が戯れていた。

ジュディは回廊の一番奥まったコーナーに案内した。
手にしたKEYでドアを開けた。
そこはファニッシュ、家具付きの部屋だった。
12畳ほどの部屋に6畳くらいのキッチンが付いていた、日本で言う1ROOM+キッチンといった感じだ。
トイレとスライドガラスのドアのあるシャワールーム、バスタブは無い。
セミダブルくらいのソファベットはリビングのコーナーに、大きな冷蔵庫とシンプルだが丸いテーブルとイスが2脚キッチンにあった。
ランプシェードとキッチンの照明は有るので初期の生活には問題は無い。
日本と違い、間接照明が多いのがほとんどだ。
個人的には間接照明の淡い光が、夜には落ち着いて好きだ。
内装は毛足の長めのラグがリビングに敷かれ、キッチンはリノリウムタイプのフロアだ。
窓はパテオに面した部分とビル外壁に当たる部分に大きくある。
キッチンも構造的にこの部屋はコーナーなのでシンク前面にやや小さめの窓が有る。
残念ながらこのキッチンの窓は隣のビルの背部の配管や空調機器の展望しか得られなかった。
備え付けのベージュのカーテンが有り、薄茶色のブラインドが備え付けられていた。

[f:id:max6:20130830210153p:image]

ジュディは壁のコーナーに設置されたエアコンのスイッチを作動させていた。
ガスのヒーターも備え付けられてあった。
キッチンに行って蛇口をひねってみた、白い気泡を含んだ水が勢いよく出た。
LAの水はカルシウム系の白濁が有って、水道水でも旨く飲める日本の水と比べると残念な水質だ。
シンクの排水口にはディスポーザーが装備されていた。
生ごみはそのまま流して、スイッチONで粉砕される。

「samからレントの条件が提示されています、この条件はGOODディールですね!」
ジュディは契約書類と金額が書かれたメモを手にしてキッチンのテーブルに置いた。
「何か御飲物でも用意して来れば良かったですね・・・」
「ああ、大丈夫ですお気使い無く・・・お部屋見せてもらって気に入りました」
自分で想像していたよりも、好条件の物件だった。

書類に目を通してジャケットのペンを取り出そうとしたが無かった。
ジュデイは、素敵な重厚感のあるペンを差し出しながら、にこにこしている。
「ジュディありがとう!」
私はそう言いながら書類の数ページの欄にサインした。
「デポジットはチェックをきりますから、それでいいですか?」
「はい、構わないですよ。うれしいですわ、お気に召していただいて」
「このロケーションでこの価格ならとても満足ですよ、事務所的な使用になると思うな、それとベットルームですね」
ジュディは書類をファイルに納め、黒く薄いバックにしまった。
「一応、管理人の御夫婦に紹介しますわ、とても親切な面倒見のいい方なんです」

カーテンを閉め、回廊に出てドアにロックしようとして、ジュディは私を振り向いてKEYを渡した。
「はい!NEWマスターのお仕事ね・・・」
ちょっとした仕事を終えてほっとしたのか、笑顔が素で可愛かった。
ジュデイならお礼にディナーでも誘いたくなった。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130911/1378880391:title=つづく]

小さい間取りだがコンドミニアムを契約したので、LAのベースとなる部屋にKEYでロックした。
このドアは2つのKEYで施錠しないといけない。
LAは全米でも犯罪都市として認識されている。
このエリアはビバリーヒルズ市内の東の部分に当たる。
とても広大なLA市内の一部がビバリーヒルズ市となっている。
LA市の中にビバリーヒルズ市が有るのだ。
それぞれに独自の警察を保持している。
LAPDはロスアンゼルスポリスデパートメント。
管轄権が異なるのだ。

ビバリーヒルズ市警は広大すぎる守備範囲のLAPDと異なり、警護エリア自体が小さいので迅速にパトカーが到着する。
先日も深夜の歩道で不審な若者が逮捕されていた。
手錠を後ろ手にサイドウォークにひざまずかされ、尋問を受けていた。
日本と異なり、手錠は必ず後ろ手にされる。
それだけ凶悪な犯罪者が多いということで、パトカーにショットガンの装備は当たり前、装弾数の多い強力な銃の
携帯は当然のようだ。

ショッピングセンターの客用エレベーターに現金輸送のセキュリティ要員2名と乗り合わせたことが有る。
現金のコンテナーを台車に乗せ乗り込んで来た。
目つきが鋭い大男の制服を着た威圧感のあるセキュリティー員。
びっくりしたのは、大型銃をホルスターから方手持ち抜き身で、引っさげたままだった。
マグナムと思われるシルバーの回転式拳銃だった。
いつでも撃てる体制で隙が無かった。

銃社会が当たり前の米国では、普通の家庭にも銃は有る。
悲しい話だが、銃による自殺者の話を聞いた、それも異なる友人からだ。
死への手段を銃に求めるケースがあまりにも多いらしい。

郊外の荒涼とした砂漠地帯を長距離ドライブしたことが有る。
行けども行けども景色の変化が無くただハイウェイが地平線に伸びているような道だ。
運転しながら、あの水平線に浮かぶ岡を越えれば町が出るだろう・・・・
そう思いながらただ突き進む。
やがて丘の上から先の展望が見え景色が開けるが・・・・・
そこはまた・・・・・ただ同じような砂漠でこれでもかと1本道が水平線に消えている。
そのようなエリアでは、たまにロードサイドに立つ標識やちょっとした木立は銃痕で穴だらけになっている。
ドライブに飽きた輩が暇つぶしでターゲットにしてぶっ放す痕跡なのだ。
走りながら接近する標識が標的、ライフルや拳銃で撃ち抜くのは射的感覚なのだろう。
日本では有り得ない・・・・

ジュデイが先になって回廊を歩き2Fの管理人の部屋へ向った。
ドアをノックするとふくよかで眼鏡をかけたおばあさんがドアを開けてくれた。
ジュデイが私が新しい入居者と紹介すると満面の笑みで中に入れてくれた。
古いが綺麗にカバーがかけられたソファが有りそこに座ると、白髪の長身の老人が現れた。
「ハロー、私が管理人のアントニオだ、よく来られた日本からだそうだな」
大きな鼻に彫りの深い皺、一見強面のイタリア系マフィア幹部のような大男だが、赤いアロハが白髪とマッチして
目がとても優しい。
アントニオ夫妻はsamのヨット仲間で、今はリタイヤしてこのビル管理やメンテナンスを任されている。
「いつ引っ越して住むんだい?何か解らんことあったらいつでもドアをノックしてくれ!、時々ワイフと海へ
行ってる時は・・・このカードのナンバーにコールだぞ!」
彼はマリーナデルレイにヨットを持っていて、愛妻と近海をクルーズするのが生きがいらしい。
若い時はマリーンで士官だったらしく、腕にブルーの錨をデザインしたTATOOが有った。
金色の産毛に誇らしげに光っていた。
この御夫婦とは気が合いそうで、Samがここをすすめた理由がなんとなく想像できた。
「ジュディ、samによろしく伝えておいてくれ、このナイスガイの住みかは俺等夫婦にまかせろとな・・・」
「はい、アントニオさん、いつもお世話になります。よろしくお願いしますね!」
アントニオは若いジュデイを父親のように慈愛に満ちた笑顔で満たして、軽くHUGして答えた。

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一旦samの会社に戻ることにして、ガレージに降りた。
シートベルトを締めながらジュディに聞いてみた。
「ありがとう、おかげさまでいい部屋を契約できたよ。ところで・・・・・少しランチタイムを過ぎたが良かったら一緒に食事しないか?
お礼に御馳走したいのだが・・・・」
「あら・・お気を使わないでくださいね、これも仕事ですから・・・」
「・・・・あはは、実は腹が減ってね、男一人での食事より君みたいな若いレディと御一緒ならランチの味が上がるのさ」
「あらら、私は”MSG”みたいなものかしら・・?」       ■MSG=モノソディウム、グルタミン酸ナトリウム:うま味調味料
「ジュディは・・・・魅惑のスパイスさ!」
私を見つめニコッと笑った、なんて素敵なスマイルだ、ダークブラウンの瞳が光った。
「ちょうどこのストリートの裏に”BENIHANA OF TOKYO”が有るから行ってみないか?小一時間くらい、君もランチはまだだろ?」
「はい、いつもオフィースの近くですますので・・でもいいのですか?」
「もちろん!・・・これは・・・契約条項の番外項目さ!実は喉も乾いたので・・・」
ジュディは、おかしそうにくすくす笑いながらハンドルを切った、ものの5分も掛からずにレストランのパーキングに乗り入れた。
全米でもTVCMなどで有名なファンシーなレストランなのだ。
場所柄、映画俳優やスポーツ選手、有名政治家などに利用される。
外観はお城のような白壁に日本瓦の屋根。
米国人から見れば異国情緒溢れる、高級なステーキハウスなのだ。

エントランスで停車すると赤ジャケットのカーアテンダントがドアを開けた。
我々はそのまま降りて、車はアテンダントが移動させる。
重厚な大きな城門のような木製に黒い金具があしらわれたドアを開いた。
ジュディは微笑を浮かべ、目が興味深そうに輝いていた。
レディーファーストでジュデイを先に進めると・・・
「ワォッ!ファンタスティク!」小声で私を顧みて叫んだ。
子供のようにはしゃいだジュディ、少し父親のような気持ちになり、こちらまでわくわくする嬉しさが伝わった。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20130926/1380164374:title=つづく]

中はエントランス部分に太鼓橋の欄干が有り、下は川が流れ錦鯉が泳いでいた。
靴底に感じる深めの赤い絨毯がウェイティングバーの方向とメインダイニングに続いていた。
支配人兼オーナーの初老の男性がにこやかに現れ、日本語であいさつした。
彼とは顔なじみで、ここには接待で何回か利用させてもらっている。

ブロンドで可愛らしい笑顔のフロントの女性が、黒いパンタロンみたいなズボンに上着だけの着物のような装いで佇み
メニューホルダーを抱え支配人のテーブルへの案内指示を待っていた。

私は彼に、この店の裏手のコンドミニアムをレントしたことを話していたのだ。
支配人は、とても喜んでくれて、遠慮する私達をバーの方にいざなった。
御近所付き合いだからと、オンザハウスでドリンクを御馳走してくれるそうだ。
ありがたくいただく事にした。

ウェイティングバーはファンシーなレストランなら備えているところが多い。
たいていテーブル予約して行くようなレストランならバーを楽しむのは食事へのプレリュード。
やや早めに行って、バーで食前酒など数杯重ねてテーブルには余裕で案内され食事を楽しむ。
場が違う演出もレストランの楽しみ方だ。

ランチなので、食事だけ軽くと思っていたが、支配人が気を利かせてくれた。
ジュディは勤務時間が少し気になったようだが、出がけにsamから私をゆっくり案内観光でもさせてくれと
指示が出ていたらしい。何ともうれしい計らいで、samのお気に入りの若い美女社員に今回の契約同行も依頼したらしい。

バーのカウンタースツールに座った。
日系3世のバーテンダーさんだった。片言の日本語が親しみもてて和んだ。
喉が渇いたので、ハイネケンをオーダーした。
通常、友人とのバーベキューなどではバドワイザーかクワーズがほとんど、レストランではミケロブやハイネケンがややハレのビール。
「ジュディ・・飲めるんだろ、遠慮しないでオーダーして」
「はい、私・・・ストロベリーマルゲリータいいですか?」
バーテンダーがフローズンのストロベリーをバーMIXブレンダーで撹拌して、手際よくジュディの前にカクテルグラスを置いた
フロスティ―状に赤い液体になったイチゴの小さな種が見える、テキーラベースのマルゲリータにストロベリーが入ったものだ。
もともとメキシコ発祥のカクテル、マルゲリータ・・・亡くなった恋人を偲んで命名されたカクテル。
とても人気が有る。
乾杯した。
ジュディは微笑みながらマリゲリータを口にした、塩でデコレートしたグラスのフチからルージュの赤い唇に塩が少し付いた
ペコちゃんみたいに、ちろっと舌で舐めた仕草が可愛かった。
ジュデイは一仕事終えた安堵か表情がリラックスして、少しだけ饒舌になった。

samとは父親の友人関係で、彼女の実家は建築業らしい。
不動産の勉強も兼ねて、samの会社で修行中との事だ。
驚いた事に、ナオミとも仲が良いらしい。
姉のように慕っているようだ。
samのクルーザーでのパーティーで仲良くなったらしく、中でもスキューバはナオミから教わったらしく
ナオミのツアーでパラオまで一緒に行っていた。

「・・・不思議なんだ・・・ナオミと偶然バイク関連で知り合ってから、どんどん人生が拓いて行くようで、
素敵な知り合いが日々増えてゆくんだ、もちろん目の前の美女ともね・・・・」
「あら・・・お世辞でもうれしいですわ、でも・・・ナオミおねーさんに怒られますわよ」
「えっ・・・なんでだい?」
「あはは・・・内緒・・・・レディーストークの内容は明かせないですわ・・・」
ジュディは美味しそうにマルゲリータを味わっている。
私をお茶目に澄んだ瞳で見ながら目が笑っている、その眼はこの話題は追及しないでね、と言っていた。
なんて魅力的な間の取方・・・・
ジュディは若くしてレディの術を心得ていた。

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フロントの女性が近づいてきてテーブルの用意が出来たことを告げてくれた。
飲みかけのドリンクを手に、彼女の後ろを歩き案内に従った。
太い梁と格子の仕切り、錦の幕のような装飾が施されたダイニング。
ジュデイは興味深そうに見ている。
いくつかのテーブルを越して、奥まったコーナに案内された。
そこは銀色に輝く厚い鉄板がはめ込まれたダインニングテーブルになっていた。
8人掛けくらいだが、先に初老のおしゃれな御夫婦が座っていた。
私とジュディに目が合うと気軽に会釈してくれた。
ニコニコと素敵なカップルだ。
奥様が気軽に声を掛けた。
「お嬢さんの御飲物、素敵な赤い色ね、カクテルのお名前教えてくださいませんか?」
「はい、ストロベリーマルゲリータです・・・」
「あら、いいわね~~」
ジュデイは飲みかけだが、ストローがデコレーションで付いているので、そのまま奥さんに差し出した。
「御味見、どうぞ~^」
遠慮するそぶりどころか、パッと顔を輝かせて少し飲んだ。
嬉しそうに何度もうなずいている。
「ありがとう!私も同じものを注文するわ」
ジュデイのとっさの行動が一気に空気を和ませた。
もともとフレンドリーな御夫婦だが、自然な気使いが出来るジュディの仕草が可愛かった。
彼女は人を優しくさせるパワーを身に着けている。

白いコックコートにスカイブルーのコック帽、同色のスカーフを首にきりりとしたシェフが登場した。
英語でにこやかに我々に挨拶して、鉄板の下の点火装置をONにしたようだ、調理温度になるまで少し時間が掛かる。
「こんにちは、支配人から伺っています、少々お持ちくださいね」私にだけ日本語でそう言った。
30代くらいの日に焼けた日系の方かと思ったが、米国在住の日本の方だった。
ジュデイと私はロブスターとステーキのコンビネーションメニューを選んだ、エキストラでフライドライスも注文した。
同席の御夫婦も同じメニューを着物を着たハワイアン風のウエイトレスさんに注文した。
鉄板は木の重厚なテーブル内にはめ込まれているので益子焼の大皿は各自の目の前に置かれている。
シェフは目の前で調理して熱々の料理を大皿に盛り分け入れるのだ。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20131005/1380974013:title=つづく]

食事は味はもちろんだが、演出部分の楽しみが更に何らかのスパイスになる。

たとえば、日本の懐石。
雄大な自然に囲まれた数寄屋造りのたたずまい、門の中から苔むした石畳
玄関の敷石で履物を脱ぎ、磨き上げられた木目が光り美しい廊下を歩き、縁から石庭や小池、鹿威しの澄んだ音が
時の静寂を時々思い出したように割る音色
異空間にいざなって精神まで鋭敏に研ぎ澄ます
白の和紙の障子と桟の格子戸

きっちりと和服でりりしい若い仲居さんが戸の横でひざまづくと
襟元の白さが黒髪をアップしたうなじに映えて、一瞬どきっとする
白足袋の縁がきれいな女鹿のようなふくよかな曲線を支えて、廊下に薄っすらと射す陽光と戯れる
開かれた部屋から、そこはかと畳の香が漂い静謐な外気と混じり合う
漆の光沢がやさしいテーブルに着くと、書院風の部屋の造作の一つ一つが興味深い
天然木を利用した床柱、季節を考慮した掛け軸と、さりげない投げ入れに野草の可憐な花
円窓の桟の意匠は川の流れに櫓を漕ぐ小舟
シルエットに浮かぶ影がさざ波のように庭の木立の枝葉からこぼれる
・・・・・ここまでに至るまでに、食事は既に始まっているのだ
料理を口にする事が食の全てではない

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このレストランも日本情緒を取り入れながらのOPENキッチン
目の前での調理はシズル感を増幅して、出来立ての料理をシェフのサービスで頂く。
アメリカ人には他のレストランでは得られない演出でとても人気が有る。

ジュディは益子焼の和皿の意匠や、テーブルのちょっとした金具にまで興味深そうに見ていた。
「日本のKYOTOのトラディショナルレストラン、Youtubeで見ました。凄く素敵でした!
あんなに素晴らしいガーデンの中に100年以上の建築物のレストラン、いつか行ってみたいです」
「ああ~^京都は雰囲気が有る和食レストランいいね・・・いつの日か御案内するよ、そんなチャンスが
訪れるといいけど・・・・・いや・・・・機会は意識して作らなければいけないね・・・」
ニコッと笑ったジュデイの目が頷いていた。

こんなシュチエーションは何度か経験したな・・・・
女性は男が何の気なしに言った会話内容を、数年後に思い出して投げかけたりする。
・・・「あの時・・・言ってたじゃない!約束して連れて行ってくれるって・・・・」
・・えっ?そんな事言ったっけ・・・・・
過去の女性とのやり取りが、ふと頭によぎって小さく苦笑した。

「あら・・・?・・・素敵なレディとの思い出でも・・・?うふふっ・・スマイルに出てますわよ!」
感が良すぎる・・・
図星に慌ててハイネケンを口にした。

うまい具合に、シェフがワゴンを押しながら登場した。
オーダーしたメニューの食材と調味料、調理道具を綺麗に積んでいた。
彼は最初にステーキの焼き方を確認した。
ミディアムレアで二人ともオーダーしていた。
ランチなのでやや軽いステーキだが、ブラックアンガスという品種の牛肉で
エージング2週間のサーロインステーキだ、半身のロブスターテールはニュージーランド産
日本の伊勢海老とは異なる南洋伊勢海老だ。

シェフが手際よくソース皿を各自2種づつ並べて説明する、ジンジャーソースとマスタードソース。
加熱して適温になった鉄板にむき海老をラインダンスのように並べて、華麗な手さばきでカットしてゆく。
シェフのナイフは腰に下げたガンベルトのようなホルスターから繰り出される。
海老のカットをよく見ると、背割りしてから尾をカット、さらに身を半分にしている。
素晴らしいスピードだ!
御夫婦が感嘆の声を上げた。
「わぉ!ショーを見ているようね、私にナイフを投げないでね!」
シェフが笑いながら切り返した。
「綺麗な奥様をお持ちの御主人には投げるかもしれません・・・」
「ヘイ、シェフ!、俺は・・・まだ生きていたいんだ・・・お前さんのステーキを喰ってからにしてくれ」
一同、大爆笑!

ベテランのシェフは言葉のショーも繰り出す。
気の利いたジョークはとても好まれ、そのテーブルの空気を一気に一体化して、見ず知らずの客同士を友人のように同化させる。

ちょうど焼きあがったむきエビを各自にそなえられた益子の大皿へ、スパテラをてこのようにしてポンポンと投げ入れた。
ジュディはうれしそうに私の表情を確かめるように微笑み、手にした箸でジンジャーソースの小皿にむきエビをちょっと付けて口へ。
味わっている頬がぷくっとして可愛い。
微笑みと共に何度も無言でうなずいている。

1cm角くらいに細長く事前に切り分けられたズキニースクワッシュ、輪切りにしたオニオンを外周に並べ、マッシュルームの山を角に築いた
鉄板のセンターには、ロブスターの生の殻と透明感の有るむき身を乗せた。
ワゴンの和食器の鉢からホイップドバターをスパテラですくってロブスターに乗せた。
ナイフが腰から繰り出してカット、スパテラと大ぶりのミートフォークで和えた。
ペッパーミルを片手でクルクル回しながらふりかけ、キッコーマンの赤いキャップのおなじみの容器から、ロブスターに少し注いだ。
とたんに広がる、香ばしいバターと醤油の香り。

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ほっこりと身が弾けるように調理されたロブスターを、加熱され赤くなった殻を各自の皿にデコレートして、その中に綺麗に盛り付けた。
これは、ソースを付けずにそのまま口へ。
プリプリとした食感とじゎっと口中に満ち足りる海老の芳醇な肉感、凝縮した繊維を感じつつ弾けながら海が溶ける、それもまろやかな旨みを放ちながら。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20131029/1383052251:title=つづく]

ロブスターのぷりっとした食感に、ジュディの目が和んでいた。
美味しいものを頂いている、微笑みと楽しそうな仕草がどこか家族的な雰囲気を醸し出す。
私も美しく魅力的なジュディと同じテーブルで、心がゆったりと解き放たれる感が有るのは
アルコールだけの酔いではない。

[f:id:max6:20131029221007p:image]

御一緒した御夫婦はとても上手に箸を使い、にこやかに目線を交わしている。
やはり目の前で調理するシズル感が楽しい。
醤油やバターの風味が焼けて昇華してテーブルに漂い、鉄板から食材の水分を弾く音やOILが跳ねる囁きも
大いに食欲をくすぐる。
視覚、嗅覚、聴覚、味覚のコンビネーションがスピーディーに展開していくのだ。

ステーキがミディアムレアに焼き上がり、鮮やかな手つきでサイコロ状にカットされ益子の皿へサーブされた。
ローズピンクの断面から肉汁が滲み出す前に口中へ。
かみしめるまでも無く、サーロインの旨みが舌に溶け出し焼けた表面と内部の旨みが絡み合って口中でダンスの感。

ズキニーやオニオン、マッシュルームもバターと醤油が絡んで歯触りも良く旨い。
鉄板上の旨みが乗った部分にご飯が広げられ、生卵が割られた、高温で手際よくスパテラをナイフのように操り
あっという間にフライドライスが出来上がった、これは箸では食べにくいので、レンゲが添えられた。
焦げた醤油風味とパリッとした焼き飯のコンビネーションは、ここのところパン食系が多い私にはやはりうれしい。

最後にシェフは水分の多いもやしを鉄板に広げ、もうもうたる蒸気と共に旨みの焦げを絡ませて各皿へ取り分けた。
これもちょっしたヌードル感覚で旨い。

ニコニコと丁重に挨拶して、鉄板を見事にクリーンUPしてシェフはワゴンを押して去った。
帰り際に、少しだがシェイクハンドして、折りたたんだサイドチップを渡した。
彼は、少しすまなそうな表情も浮かべたが、私とジュデイの満足の微笑みに、快く受けてくれた。

テーブル上に支払の時置くチップ意外に、個人的にサービススタッフにお礼の気持ちで渡すチップがサイドチップだ。
出来るだけさりげなく渡すのがかっこいい。
バーなどでバニーガールのウェイトレスの胸元にさっと紙幣を入れるおやじが居るが、さまにならない。
誠意をもって小さく折りたたんだ紙幣をそっと手の甲に重ねた方が効果的だ、もちろん美しい瞳を見つめて
気の利いたお礼を言えばレディのシェイクハンドと、素晴らしい笑顔のサービスを受けるだろう。
次の来店時には、ぐっと親しく接してくれるはずだ。

多くの飲食業のサービススタッフは、月2回のPEYチェック(小切手)とチップを各お店のルールでプールして配分したものが
収入となる。それ以外の収入は、個人的に得られるサイドチップになる。
人気のスタッフは当然稼ぎがいい。
ビバリーヒルズエリアはお金持ちの人種が多いので1日でかなりの金額を稼ぐスタッフも現れる。

このレストランも、Hollywoodが近いので世界的な映画スターや有名歌手、スポーツ選手、政治家などなど、TVの画面内でしか見た事の
無いような夢の人物が、さりげなくテーブルで食事している。
前回ディナーで利用した時も、偶然世界的に有名な歌手のテーブルの隣エリアに居た。
感心したのは、他の客はみんな彼の存在に気が付いていたのだが、騒がずマナー良くプライベートの雰囲気を尊重する気使いが感じられた。

「ふぅ~^ランチから素晴らしい御馳走でこんなに目の前で調理してくれるレストラン初めて・・・」
ジュデイは胃のあたりに軽く手を当てて言った。
「No room in my Stomach」
とても満足そうに頬を膨らませて深呼吸している、しぐさが子供じみているが可愛い。
「レディにはまだ予備のスペースが有るのさっ!」
ジュディは少し怪訝そうに私を見つめた。
ウェートレスさんに、グリーンティーアイスクリームを注文した。
すかさず、同席の御主人が指を2本立て、無言で奥様と自分へサイン。
私の目をにっこり見て仲良く奥様の腰を寄せてウィンクした。
茶目っ気の有る素敵なカップル、御主人はウェートレスに何か耳打ちして微笑んでいた。

ちいさい益子のボールに4つのグリーンティーアイスクりームが運ばれ置かれた。
着物のウェートレスさんが「これは・・あちらのお客様から・・・」
年輩のカップルが手で、どうぞどうぞとジェスチャー。
アイスクリームは御夫婦が奢ってくれた。
ジュデイはびっくりしてお礼を言うと、
「お嬢さんが私の娘と同じ年代で、今はLAに居ないのだけどなんだか・・そんな気がして代わりにねっ・・!」
奥様が懐かしむような表情で言った。
少し恐縮しながら美味しく頂いた。
グリーンティ―アイスクリームは和系のレストランで絶大な人気が有る。

久しぶりにとても満足するランチをジュディと共にできた。
テーブルで支払いを済ませた。

同席した御夫婦に丁重に礼を言った。
ジュデイはビジネスカードを奥様に渡して、何か話していた。
私は御主人とがっちり握手して短いひと時の邂逅を感謝した。
帰りがけのエントランスで支配人が見送りに来てくれた、見送りを恐縮していたら耳元でささやいて聞いたのだが・・
同席した御夫婦の御主人は著名な映画プロデューサーだった。
好きな映画のエンドロールでその名を何度か見かけて、名前だけは記憶に残っていた。
機会が有れば、またどこかでお会いしてお話してみたいと思ったが、プライベートな時間はお互いに尊重したい。
そうだ!ジュデイルートでまたチャンスが・・・?
そんな事を想像しながら出口でカーアテンダントにチップを渡した・・
レンジローバーが目の前に停車してあり、ジュディは颯爽と車に乗り込んだ。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20131128/1385629237:title=つづく]

「とても素敵なランチでしたわ、すっかり御馳走になってしまって・・しかもお客様に・・・」
ジュデイは少しすまなそうな表情をして、ハンドルを切りながら呟いた。
「こちらこそ、物件の案内から契約関連までお世話になって・・・美人のツアーガイドさんの案内なら
このままディナーまでお願いしたいくらいだよ!」
「まあ!ツアーですかぁ~~~~~!」
くすくす笑いながら、それでも嬉しそうに表情が輝いていた。

LAの主要幹線は車も多いが、この時間帯は快適に流れていた。
陽光が黒い磨き上げられたボンネットに反射して眩しい。
光の反射が運転しているジュディをレフ版のように照らし出して、高揚してにこやかなチークが
白桃のような細かい肌の粒子を光らせて輝いて見える。
若い生気が弾けるようで、少し羨ましい感情が湧いた。

やがて会社の敷地エリアに到着して、地階駐車場へのエントランスを滑るように下り、エレベーターホール前面に駐車した。
KEYはそのままにジュディは先に立って案内した。
「レンジローバーは社用車なので、メンテナンススタッフがあとは全てやってくれて、楽ちんなんです」
「へっ~^自前の車かと思ったよ・・・・」
「うふふっ・・私にはコンパクトな日本車の方が性に合ってますね」

地上階に戻り、オフィースの一部屋に案内されソファをすすめられた。
大き目なウッドディスクにPCモニターが2つ、機能的な黒いチェアがあった。
「コーヒーでいいですか?少し物件関連の書類にサインをお願いしたいのですが・・・」
「もちろん・・ちょうどコーヒーをお願いしたかったんだ、出来ればマグカップで頂けないかな?」
「はい、キャラメルマキアート、グランデですね~~~!」
「おいおい、いつからスタバに・・・・あはは~^」
ジュデイは冗談を言ってくれた、食事を共に過ごし友人のような親しみを感じてくれたようだ。
こういった女性の一言や変化がうれしい。
「お待ちくださいねお客様、すぐにお作りいたします・・・」
くすくす笑いながら部屋を出て行った。

ぼんやりと窓の外の手入れされたガーデンの緑を見ながら、ゆったりとした気持ちの中に流れる時間の速い流れを
少し不思議な気分で思い返していた。
ここに居る自分が、自分であって自分でないような・・・・
次々と薄く白いベールで閉ざされたステージの舞台が、次々と幕開けして新たな展開に心躍るような
そんなわくわく感を持ちながら、ストーリー展開が読めない自分も居て、ただ流れに身を任せて空間に漂う自分の分身が
ソファーに座りぼんやりしている男を見ている。
「お待たせいたしました、お客様・・・」
我に帰った・・・
会社のロゴが入ったマグカップに香り高いコーヒーがなみなみと入っていた。
コクのある味と芳香に、空間の思念がまた霧になって消えた。

ジュデイも同じマグカップで熱々のコーヒーを飲んでいた、ルージュのきりっとしたリップが白いマグカップに映えて
ビジネススーツをおしゃれにまとった若い女性が、ディスクのコーナーにお尻を乗せて書類を片手でめくっている。
見とれていると、書類から顔を上げて視線が合った。
「・・・あら?・・・なんですか~^」微笑んで呟いた。
「あっ・・・ごめん!・・・素敵な絵に・・目が固まっちゃった・・」
「まあ!・・うふふっ・・お客様、こことここにサインお願いします」
目の前に書類を広げられた。
ペンを受け取って、内容を確認してサインした。
「ありがとうございます、これで手続きはすべて完了しました」
「こちらこそ、いい物件を紹介してもらってランチまで付き合ってくれて・・・」
その時、ジュデイの携帯が鳴った・・・
私が言いかけた言葉を飲んで見ていると、ジュデイは表示された通話先を確認して一瞬表情が華やいで、そのまま耳にあてた。
仕事関連にしては親しげな友人と話しているよう見えるのだが・・・
私の顔を見ながら微笑んで会話しているのが気になる。
一通り用件が済んだようで携帯をしまうのかと思ったが、ジュデイは通話状態のまま
おかしそうに差し出した。

えっ・・・?
真顔でわが身を指さして目で問いただした、ジュディの携帯に私の知り合いから連絡が有るとは
思ってもみなかったのだ。
少しおどおどしながら耳にあてた。
「Hello Mr Chef Road king・・・・」
ややハスキーでSEXYな声音・・・・・
「すみにおけないプレイボーイね~~~、ランチに美人を誘ったんだって・・・私という女が居ながら
どうしてくれるのよ~~~~!」
いたずらを見つけた女神のように、おかしそうに笑っている・・・ナオミだった
「ジュディは私の配下のエージェントだから、次回からは許可をとるのよ!・・ダブルオーセブン」
どぎまぎして答えた・・・
「・・・あっ・・はい、レディMにはお見通しでしたね、監視衛星がそこらじゅうに有りそうだ・・・」
「罰として、ディナーね!・・ジュディからアドレスは聞いたから、明日の午後あなたのセーフハウスに行くわ
ちょうど用事も有るし」
「えっ・・・それは助かるな~^少し家具とか探さないといけなし、手伝ってほしいと思っていたんだ。
お礼はいずれボスのお食事を・・まだ部屋が整わないので残念ながら腕は振るえないけど外食なら」
「OK、ディール! いずれ美女2人がワイン持参でシェフのお料理でパーティーなら許すわ・・・・」

うれしかった・・・
ジュディとナオミは姉妹のようにコンタクトしていたようだ。

つづく

ナオミは予告通り爆音と共に現れた、今日はHarleyフォーティーエイトに乗っている。
初めて会った日の、トライアンフ、スラクストンのカフェレーサースタイルにも驚いて見入ってしまったが
アンテークブラックの革のライダースジャケットとフレアペイントのあるジェットヘルメット、レイバンのサングラスで、まるでバイク雑誌の巻頭に載っていそうな
ワイルドな雰囲気を纏っていた。
イメージの相違に新鮮な驚きがあった。
メットを取って、軽く髪をほどくように頭を振るとサングラスを形のいい鼻に滑らせて上目遣いに、ニコッと笑った。
白い歯が真紅のリップステックに映えて、お茶目な表情が可愛く美しい。

[f:id:max6:20131229235627p:image]

「よく来たね、まだ先日のお礼もしてないのに、わざわざ来てくれるなんて・・・」
「ちょっと、様子見も兼ねてね!ホセに頼まれた事もあって・・・それでね! 妹分もお世話になった事だし・・・」
ナオミは革ジャンのポケットから、KEYを取り出すと投げてよこした。
手に取ってみると、それはホセが貸してくれたあのロードキングのKEYだった。
「ホセからのメッセージは・・・キングをWEST HOLLYWOODのガレージまで移送したから取りに行けと・・・」

なんて気の回る段取りのいい連中か・・・
素晴らしい配慮に、うきうきと気分が高揚する。
「ほんと・・・何て言ったらいいのか、こんなに良くしてくれて俺みたいな知り合ったばかりの外国から来た男に・・・」
「何言ってんのよ、私もSamもエマ夫婦もジュディも、あなたとハートがシンクロするから出来る事よ、感覚でどこか解るのよ、それが楽しいじゃない?」
ナオミの言葉は心の底からうれしかった。
ここ数日、素晴らしい人達に恵まれた自分がどこか他人のような気がしていたが、見えない答えの後ろ姿を捕まえたような気がした。

「お部屋見せてくれる? このストリートはBeverlyhillsエリアだし安全でいいわね・・ダディもいい物件得ているわ」
「はいはい、ナオミエージェント様のセーフハウスで・・・・」
リモコンで地下ガレージのゲートを開けて、フォーティーエイトを移動し駐車した。
このエリアでもバイクの路上駐車には気を遣う。
ごく短時間で盗み取るPROが居るのも事実だ。
可能な限り安心できる状況を確保して憂いの無いようにしなければならない。
それがこの大都会LAの暗黙のルール。
オウンリスクを認識して万全に過ごすことが犯罪に遭遇しない方法。
日本ののんびり感覚とは緊張感が異なる。

狭いエレベーター内でナオミのパフュームが微かに香る。
メットで乱れた髪を片手で掻き上げるようにして視線を合わせた。
「ジュディがとても喜んでいたわ、楽しいランチだって言ってた・・・」
眼がほんの少し意地悪そうな光を帯びてる。
「あっ・・・ごめん、ナオミさんにお礼を先にとは思っていたんだ・・・そんなつもじゃなく・・・」
ナオミは笑いをこらえていたが、吹き出しながら言った。
「馬鹿ね!あなたを攻めてなんかいないわよ!私がジェラシーするとでも思ったの?」
「・・ああぁ~そう・・じゃなくって・・ただお昼の時間だったし・・・」

スポーティーなボーイッシュな感じの中に、女性のふくよかな暖かさがあって、時として視線が深く私の胸の内を
読み取るようにじっと制止すると、ハスキーなささやき声で尋ねた。
「今、ステディなお相手居るの・・・?」
「・・・・えっ・・・いきなりのパーソナルクエスチョンだね・・・・」
「一緒に仕事する相手には聞くわ・・・・私なりの安全策と・・・・冒険よ・・・」

どう意味を理解したらいいのか、一瞬戸惑う。
誘いでもあり・・・彼女独自のトラップ・・・・?

まあ、どちらでもいいが・・・・
あいまいに微笑んで、手にしていた氷が溶けて薄くなったアイスラテを意味無くすすった。

エレベーターのドアが開いて・・・なんだかほっとした。
あの狭い空間でのナオミの思いがけない質問は、どぎまぎしてしまう。

[http://d.hatena.ne.jp/max6/20140122/1390375589:title=つづく・・・・]

部屋のKEYを差し込んだがドアを開けるのもぎこちない。
まだ倉庫然とした感じの生活感の無い部屋にナオミを入れるのはちょっと恥ずかしいような気がした。

「あら、小さいスペースだけど・・落ち着いたカラーでいいんじゃないの?」
ソファーベットの端にちょこんとお尻を乗せて、子供みたいに少しはねている・・・
目が合ってくすりと笑った、「リネンを買わなきゃね、ベットカバーは濃いダークブルーの落ち着いた感じがいいな~^」
部屋のベージュ系の壁面とイメージを重ね合わせているかのような視線で言った。
「おいおい、ナオミの趣味でこの部屋をインテリアするのかい?まるで同棲をするカップルみたいじゃない・・あはは~」
「・・・ナイトがお望みなら、プリンセスもちょっとは考えてみようかしら?・・・うふふっ・・・」
さりげなく返された返答も、軽妙でおもしろい。
本気に思っているのか、社交辞令か?解らないが、ナオミとの会話はうきうきする。
実はまだナオミの事は良く知らないのだ・・・
しかし、もう長く知り合って付き合っているような女友達という感じもする。
ごく自然に自分の心に溶け込んでいて、一緒に居る事が当たり前のような、懐かしいような、不思議な安堵感が有る。

ナオミは立ち上がってキッチンの戸棚やシンクを覗いている。
「ねえねえシェフ?落ち着いたら私の為にディナー作ってここで食べていい?」
「えっ?・・・今度はシェフにされて、ディナーの催促かい・・・喜んでプリンセスナオミ様の為なら腕をふるうよ」
「ほんと!約束よ!2人で食事もいいわね」
「とてもお世話になっているので、どこかレストランにお連れして食事でもと思っていたんだ・・・」
ナオミは微笑を浮かべながら優しく歌うように言った・・・
「…あなたの料理で・・・その方がうれしいわ」
長いまつげが少し揺れて瞳がうっとりと輝いて見えた。
瞬間視線が止まって、どきまぎしてしまう。
女心の真意が読めない・・・そんな野暮な男のつもりはないが、この状況での会話が現実味を帯びてくると
妙に慌ててしまっている自分が居た。
「あっ・ああ・・落ち着いて部屋の整理がついたら是非ご招待したいです。でも・・俺と二人きりでいいの?」
「・・・・・んっ?・・・・だって・・・この部屋狭いでしょ!」
ナオミは私の顔をまじまじと見て、げらげら笑っている。

カーテンや必要な収納BOXのサイズをメモした。
引っ越し人生で、転々と住居が変わる生活を送ってきた。
経験上、何が必用か漠然とは解るのだが、日本の部屋の作りと異なりファーニッシュでそこそこ家具や冷蔵庫も備え付けなので勝手が違う。
ナオミの提案で近所のインテリアSHOPまで行く事になった。
1時間くらいなら付き合ってくれるそうだ、2人で購入品目を見てから私自身をWEST HOLLYWOODのあのファクトリーまでデリバリーだそうだ・・・
ロードキングをピックUPしなければならない。

シングルライダースを羽織、グローブをポケットにねじ込みヘルメットを手にした。
ナオミの乗ってきたフォーティエイトでタンデムで行く事になった。
「あれ・・?そう言えば、シングルシートだよねフォーティーエイト・・・?」
「・・・あっ!・・・うふふっ・・・ホセがシート変えたカスタム車両だぞって、出る前に言ってた・・・意味が、今解ったわ!」
ナオミが小さく息を呑んでホセの配慮に驚き、うれしそうに頷きながら笑っていた。

部屋をロックしてパテオに面した回廊を歩く、ナオミが自然に腕にぶらさがってきた。
「ジェントルなライダーはレディをエスコートするものなの!」
「あっ・・・・ごっ・・ごめん・・・」
子供のように笑いながら、体を押し付けてくる。
半分体重を預ける形で歩く、腕に女性のふくらみを感じて照れてしまうが平静を装った。
そのまま狭いエレベーターに乗り込む。

「まだ・・・お互いの事・・・知らない・・・」
ナオミはひとり言のようにつぶやいた。
「あっ・・・うん・・・そうだね・・・」
ナオミの一言が何を意味するのか、何を期待しているのか、こんな狭い空間で意味有り気なつぶやきは魅惑のオーラを纏って
体にまとわりつく。
それもぴったりと半身を私に寄り添って・・・・
意図的な感じがしないのだが、単に言葉の悪戯でのつぶやきとは思えない重さが有った。

ドアが開いた・・・
エレベーターBOXでのほんの短い時間が芳醇なワインの香りを静かに放ちながら滓のように沈む。

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体を寄せながら広いパーキングを少し歩いたが、二人とも無言だった。
言葉を発せなくても、ハートがどこかシンクロして少しだけ震えた気がした。
沈黙の意味が甘美で、無限の旅の入り口に放り出されたのだ。

つづく・・・・